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喝采
第3章 おお、友よ
終演後、私服に着替えた谷田部は加藤らと合流した。これから居酒屋を貸し切って打ち上げが行われるのだ。
「お前が見かけたのは、やっぱり玲音だったよ」
「で、雫石さんは? 連れて来ればよかったのに」
雫石は古楽の世界では名の知られたカウンターテノールだ。雫石が演奏を聴いていたと知れば団員は喜ぶに違いない。
「帰った。今夜の便でヨーロッパに戻るんだってさ。お前によろしくって言ってたぞ」
「……忙しい人だな」
「うん。あ、そうだ。これ玲音からお前に預かってきた」
谷田部はポケットから折り畳んだ数枚の紙を取り出した。
「なんだ?」
「今日の感想と簡単なアドバイスらしいぜ」
「……すごいな」
配布したアンケート用紙の感想欄だけでは足りず、裏面や別のチラシの裏も使ってびっしりと文字が書き連ねられていた。休憩時間と終演後の短時間でよくこれだけ書けたものだと感心する。
「玲音のアドバイスならかなり参考になるんじゃねえか?」
「だろうな。ただこれはちょっと……解読に時間がかかるな」
「解読?」
「なんだ、お前見てないのか」
チラシの裏にびっしりと並んだ文字は、日本語ではなかった。
「ドイツ語……か?」
「ああ。雫石さんはウィーン育ちらしいし、もしかしたら日本語があまり得意じゃないのかもな」
「玲音のことだから、受難曲が歌えるくらいならドイツ語もできるだろうって安易に考えてるんだろうぜ」
「ありえるよなあ」
「うん」
加藤と谷田部は雫石の残したドイツ語の走り書きを見ながら笑った。
そのとき成田に向かう雫石がくしゃみをした……かどうかは定かではない。
「お前が見かけたのは、やっぱり玲音だったよ」
「で、雫石さんは? 連れて来ればよかったのに」
雫石は古楽の世界では名の知られたカウンターテノールだ。雫石が演奏を聴いていたと知れば団員は喜ぶに違いない。
「帰った。今夜の便でヨーロッパに戻るんだってさ。お前によろしくって言ってたぞ」
「……忙しい人だな」
「うん。あ、そうだ。これ玲音からお前に預かってきた」
谷田部はポケットから折り畳んだ数枚の紙を取り出した。
「なんだ?」
「今日の感想と簡単なアドバイスらしいぜ」
「……すごいな」
配布したアンケート用紙の感想欄だけでは足りず、裏面や別のチラシの裏も使ってびっしりと文字が書き連ねられていた。休憩時間と終演後の短時間でよくこれだけ書けたものだと感心する。
「玲音のアドバイスならかなり参考になるんじゃねえか?」
「だろうな。ただこれはちょっと……解読に時間がかかるな」
「解読?」
「なんだ、お前見てないのか」
チラシの裏にびっしりと並んだ文字は、日本語ではなかった。
「ドイツ語……か?」
「ああ。雫石さんはウィーン育ちらしいし、もしかしたら日本語があまり得意じゃないのかもな」
「玲音のことだから、受難曲が歌えるくらいならドイツ語もできるだろうって安易に考えてるんだろうぜ」
「ありえるよなあ」
「うん」
加藤と谷田部は雫石の残したドイツ語の走り書きを見ながら笑った。
そのとき成田に向かう雫石がくしゃみをした……かどうかは定かではない。