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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
「斉賀さんは指揮者だからね。体力は僕たちより断然あると思うよ」
「まあな」

 雫石の言葉に谷田部は同意した。指揮者は体力勝負だ。仕事上の必要で始めたトレーニングが趣味になっている指揮者も多いときく。実は斉賀も年齢の割に引き締まったいい肉体をしている。

「んじゃ俺たちもさっさと着替えるか。……おっと」

 谷田部は腕を伸ばし、歩き出そうとして転倒しかけた雫石の体を支えた。雫石は右足が不自由だった。

「大丈夫か、玲音。だからせめて舞台袖まで杖持って行けって、言ってるだろ」

 雫石はふいっと横を向いた。普段は杖を常用している雫石だが、本番の舞台では頑なに杖の使用を拒否する。きっと、本人にしかわからない理由があるのだろう。今日も杖は楽屋に置きっぱなしになっている。

「舞台で転んでも知らねえからな」
「その時はもちろん拓人が支えてくれるんだろう?」
「斉賀さんの時はな」

 斉賀に言わせると谷田部のテノールと雫石のカウンターテノールは声の相性がいいらしく、斉賀は二人をペアで呼んだ。雫石と知り合ったのも、斉賀に呼ばれて舞台で共演したことがきっかけだった。

「で、どこかでなんか食おうぜ」
「その前に荷物を置きたい。ホテルはすぐ近くなんだろう? 先にチェックインしないか?」
「わかった」

 二人は私服に着替え、予約しておいたホテルにチェックインした。今日は谷田部があらかじめ近場にホテルを取っていた。部屋はツインルーム。二人で同じ部屋に宿泊するのは今回が初めてだった。部屋に辿り着くと、谷田部はコートも脱がずベッドの上に大の字になった。
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