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喝采
第6章 クリスマスオラトリオ
「腹減った。メシ行こうぜ、メシ!」
「……それ以外言うことないのか? 衣装吊るすから貸してくれ」
「歌うと腹が減るんだよ。衣装サンキューな」
谷田部はクローゼットの前で几帳面に衣装を掛けている雫石に向かって自分の衣装を放り投げた。衣装の塊は、見事な弧を描いて雫石に命中した。
「っぷ。投げるな。軽くシャワー浴びてくるから、少しだけ待っていてくれないか」
「おう」
一人で放置され暇をもて余した谷田部はバスルームに忍び寄った。ドライヤーの音に紛れてこっそりと雫石に近づく。
「そこで何をしている?」
雫石は胡散臭いものを見るような目で鏡越しに谷田部を見ていた。
気づかれずに近づいたつもりだったが、すべて鏡に映っていたようだ。
「バレたか」
「全部丸見えだ」
「ハッハッハッ! 気のせいだ」
谷田部は立ち上がって雫石の肩を抱いた。さらさらとした温かな髪の感触とリンスの香りに思わず体がうずく。
「なあなあ、玲音くん。これからお兄さんとイイコトしない?」
「断る。汗くさい」
「えー。傷つくなあ」
冗談に見せかけた本気のお誘いはあっさりと振られてしまう。お堅く潔癖症気味の雫石にこの手の冗談が通じるはずもなく。
「拓人はシャワーを浴びていないんだし、事実だろう」
「ちぇっ、じゃあメシ行こうぜ!」
「わかったから手を離してくれ」
雫石は肩を抱く谷田部の手を払った。谷田部は懲りずに再度雫石の肩に手を掛けた。
「いいじゃねえか、このままで」
「肩を抱かれると歩きにくい」
「……悪い」
谷田部は慌てて手を引っ込めた。つい癖で親しい人間の肩を抱いてしまうのだが、雫石は足が悪い。
「拓人のせいじゃない。行こうか」
雫石は自嘲気味に言うと肩をすくめ、杖を手にして歩き出す。
二人はホテルを出ると、すっかり暗くなった街に繰り出した。
「……それ以外言うことないのか? 衣装吊るすから貸してくれ」
「歌うと腹が減るんだよ。衣装サンキューな」
谷田部はクローゼットの前で几帳面に衣装を掛けている雫石に向かって自分の衣装を放り投げた。衣装の塊は、見事な弧を描いて雫石に命中した。
「っぷ。投げるな。軽くシャワー浴びてくるから、少しだけ待っていてくれないか」
「おう」
一人で放置され暇をもて余した谷田部はバスルームに忍び寄った。ドライヤーの音に紛れてこっそりと雫石に近づく。
「そこで何をしている?」
雫石は胡散臭いものを見るような目で鏡越しに谷田部を見ていた。
気づかれずに近づいたつもりだったが、すべて鏡に映っていたようだ。
「バレたか」
「全部丸見えだ」
「ハッハッハッ! 気のせいだ」
谷田部は立ち上がって雫石の肩を抱いた。さらさらとした温かな髪の感触とリンスの香りに思わず体がうずく。
「なあなあ、玲音くん。これからお兄さんとイイコトしない?」
「断る。汗くさい」
「えー。傷つくなあ」
冗談に見せかけた本気のお誘いはあっさりと振られてしまう。お堅く潔癖症気味の雫石にこの手の冗談が通じるはずもなく。
「拓人はシャワーを浴びていないんだし、事実だろう」
「ちぇっ、じゃあメシ行こうぜ!」
「わかったから手を離してくれ」
雫石は肩を抱く谷田部の手を払った。谷田部は懲りずに再度雫石の肩に手を掛けた。
「いいじゃねえか、このままで」
「肩を抱かれると歩きにくい」
「……悪い」
谷田部は慌てて手を引っ込めた。つい癖で親しい人間の肩を抱いてしまうのだが、雫石は足が悪い。
「拓人のせいじゃない。行こうか」
雫石は自嘲気味に言うと肩をすくめ、杖を手にして歩き出す。
二人はホテルを出ると、すっかり暗くなった街に繰り出した。