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喝采
第8章 満ち足れる安らい、嬉しき魂の喜びよ
 斉賀に雫石のことを聞いた後、谷田部は雫石の両親のことを調べていた。「雫石」という比較的珍しい名字が幸いし、両親のことはすぐにわかった。
 父親の雫石崇はウィーンを本拠にする有名オーケストラの首席ヴァイオリン奏者で、母親は旧姓の高梨アリサの名前で活動をする、世界的に著名なピアニストだった。雫石は二人の一流音楽家の一人息子だった。

「このままだと僕は、両親の敷いたレールに乗って、ピアニストかヴァイオリニストの道に進まざるを得なくなる。そう考えた僕は、両親に黙って声楽科を受験した」
「ずいぶんと思いきったな。バレなかったのか?」
「もちろんすぐにバレた。僕は両親と口論をし、家を出た。それ以来実家には帰っていないし、両親の顔すら見ていない」

 雫石が両親と断絶した理由はわかった。しかしそのまま現在までというのは、あまりに長すぎる気がする。谷田部は雫石と両親との和解を試みることにした。

「そうか。でも玲音はそれでいいのか? ご両親はきっと玲音のことを心配してると思うぜ」
「知った風な口をきくな! 他人に何がわかる!」

 雫石は谷田部の言葉を激しく拒絶した。苛烈なまでの瞳で谷田部を睨みつける。雫石と両親との間には思った以上に深い亀裂が横たわっていることを、谷田部は知った。

「両親にとって、レールから外れた僕は不要なものでしかない。たとえ僕がどこかで野垂れ死んだとしても、両親は気にも留めないだろう」

 そんなことはないと、谷田部は言いたかった。だが雫石の両親を知らない谷田部に言えることではなかった。

「俺はお前の両親のことを詳しく知っている訳じゃないから、これ以上は何も言わない。ただ言えることは、俺には玲音が必要だということだ」

 谷田部は背後から雫石を抱き締めた。

「……拓人は本当に変わっているな」
「変わってなんかない。みんな玲音をちゃんと見ていないだけだ」

 もしかしたら雫石の両親でさえ、雫石をちゃんと見ていないのかも知れない。何とかして雫石と両親を引き合わせ、きちんと向き合ってほしかった。

 その機会は早すぎるほど早く、しかも望まない形で訪れた。
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