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喝采
第8章 満ち足れる安らい、嬉しき魂の喜びよ
 谷田部は雫石の隣に腰を下ろした。そっと手に触れると氷のように冷たい。いきなり訪ねてきた谷田部の家族に、緊張していたのだろう。雫石は膝に置いた拳を握り締め、ぽつりぽつりと話し始めた。

「……僕の両親は、僕をピアニストかヴァイオリニストにさせたかったらしい」

 ヴァイオリンは聴いたことがないのでわからないが、玲音のピアノの音は天から与えられた音だ。谷田部もピアノを一通りには学んでいたのでよくわかる。決して練習で身に付く音ではない。あの音を聴いたらプロの道に進ませたいと思うのは当然のことだろう。

「僕は子供時代、毎日レッスン漬けで同級生と遊ぶことは許されなかった。時間もそうだが、手を傷つける可能性のあることも一切させてもらえなかった」

 器楽専攻の谷田部の友人も、みな神経質なまでに手を大切にする。楽器を演奏する人間にとって、命の次に大事なものは手なのだ。もしかしたら命よりも。

「僕は僕を縛り付けるピアノもヴァイオリンも大嫌いだった。レッスンなんかより、同級生と遊びたかった。だが両親が音楽家という環境は、レッスンから逃げ出すことを許さなかった。レッスンの教師は両親だったから。僕の楽しみはたまに家にやってくる斉賀さんの歌を聴くこと、音楽の授業で歌うことだけだった」
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