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埋み火
第3章 跳ね火
 二度目の膣内射精をうけ、霧子は今日なんど絶頂に達したかを数えることはもうやめてしまった。

 自分の中で、博之の精液と自分の愛液とが混じり合っている。

 機能的で美しいが無機質なホテルのベッドで抱き合うよりも、粗末で狭い自分のワンルームに博之が訪ねてきたことと、本音で話し合えたこととで心の緊張がほぐれたから体が絶頂を迎えやすくなったのかもしれない。


「ああ、ほんとに血管切れて死んじゃいそ」


 霧子の上で、あの日のように博之が息を荒げてぐったりしている。


「そうね。浮気されるよりかは、殺しちゃうほうがいいかも」


 しのび笑いを互いに洩らし、まだびくびくと脈うちながら奥深くで溶け合い、キスを続けた。







 互いから出たものを軽く拭くと、バスタブに湯をためるまでの間、霧子は部屋の電灯を消してカーテンを開けてからベッドに戻ってきた。


「何で開けるの?」


 もうとっぷりと日は暮れ、ちらちらと外の街灯の光が窓に反射している。

 霧子が空を指さして、「きれいね」と言うと、博之は合点がいったようだった。


「そっか。うん。……月がきれいだな」


 ベッドの中でつないだ手の指先に力を少しこめて、霧子の左手に嵌った指輪を撫でながら博之が耳元に囁いてきた。


「わかりきってることじゃない」


 左手の指を絡めながら、霧子は右腕を博之の頬に伸ばした。


「私はずっと前から、月が本当にきれいだって思ってたのよ」

「ああ。すごくきれいだ、ずっときれいだ」







 その夜が曇り空で、そしてアパートの二階からは周囲のビルに遮られて月など最初から見えなかったことは、ふたりにとってはどうでもよかった。






《埋み火・完》
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