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埋み火
第2章 熾し火
「連休は嫁が子供と実家に帰るんよ。だから、俺は家で一人やねん」

「へぇ……」

「駅から便利で、霧ちゃんが気にいるようなホテル探しとくよ。そやね、昼過ぎに待ち合わせて、ちょっと街を歩いたら晩飯でも食べよっか」

「はい」

「嬉しいな」


 賢治は周囲をうかがって、通行人や他の車が停まっていないのを確認すると手をつないだまま霧子の頬に軽く素早くキスをした。

 今日いちにち、賢治の手の早さや大胆さに霧子は最後まで目を白黒させた。


「言っとくけど。いつもこんなこと、しとるわけやないからね。こう見えて俺、愛妻家なんやから」


 賢治は確かに妻子を大事にしていた。あのころ「嫁のおかげで俺があります」と公言してはばからず、「うちの嫁は何もできないし、働き者でもないから」と自分の親や職場の連中に霧子を悪く言う自分の夫とは大違いだといつも羨ましかった。

 そして霧子は「また、妻子持ちの男か」とひどく落胆した。

 もし賢治を男として好きになれたとしても、結局は博之と同じように霧子だけのものにはなってくれないし、隠れて会わなくてはならないではないか。

 自分はそういう、男の「都合のいい女」にしかなれないのだろうか。
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