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埋み火
第2章 熾し火

「うん、似合っとるよ」
そろそろ予約していた店が開く時間だということで散策しながら地下鉄のホームへ降りるエスカレーターで賢治は目を細めて霧子の髪を撫でた。
「俺、センスええやろ」
「ありがとう、嬉しい」
「大事にしてな」
予約していたのはボリュームがあって値段も暴利ではない本物のフレンチを食べさせてくれる名店で、霧子は予算的にいつも安いランチしか食べられなかったのだが、久しぶりにディナーで好きなものをたくさん食べた。
歩いた疲れもあったが、博之とのデートの際にさんざん気にした胃下垂などもわりと今は気にならなかった。
これを「賢治のほうが気が許せる」のか、「賢治にこの後ベッドで何を見られてもどうでもいい」のか、自分でも判別しがたかった。
こうして京都の観光とディナーを楽しんでから、再び駅前に戻ってあの高級ホテルに入り、賢治が予約していたツインルームのドアを開けたときはさすがに霧子も緊張したが、賢治はドアを閉めて部屋に入るやいなや霧子を後ろから抱きしめてきた。
「やっと二人きりやね」
基本だ、というか随分ベタなセリフだとは思ったが、賢治が早く霧子を欲しそうなのは昼間から一目瞭然だった。
手を握ったり腰に手を回したり、こちらにいたときの同僚や客にばったり会ったらどうするのだろうと思うほどには賢治は遠慮なく霧子に触れてきた。
バスで運よく並んで座れれば、霧子の太ももにそっと手を置いて「白いなあ」と満足げにつぶやいていた。
「霧ちゃん」
自分に霧子を向き直らせると賢治は正面から力強く抱きしめ直した。
賢治のシャツから香るあの、博之と同じ匂いが、霧子をくらくらさせる。
「好きです」
実直なセリフとともに強く抱きしめられているのに霧子はどこか完全な他人事のように「この人、きっと若いころはもてたんだろうな」と思った。
京都の夜景を見下ろせる部屋で、そんなふうに思えるシチュエーションの中で賢治は唇にキスをしてきた。
自分の唇に、ぬめっとした賢治の唇が合わさると霧子は賢治のセリフについてぼんやりと考えた。
(好き、か。好きってどういうことだろう。奥さんの次に、とかかな)
そろそろ予約していた店が開く時間だということで散策しながら地下鉄のホームへ降りるエスカレーターで賢治は目を細めて霧子の髪を撫でた。
「俺、センスええやろ」
「ありがとう、嬉しい」
「大事にしてな」
予約していたのはボリュームがあって値段も暴利ではない本物のフレンチを食べさせてくれる名店で、霧子は予算的にいつも安いランチしか食べられなかったのだが、久しぶりにディナーで好きなものをたくさん食べた。
歩いた疲れもあったが、博之とのデートの際にさんざん気にした胃下垂などもわりと今は気にならなかった。
これを「賢治のほうが気が許せる」のか、「賢治にこの後ベッドで何を見られてもどうでもいい」のか、自分でも判別しがたかった。
こうして京都の観光とディナーを楽しんでから、再び駅前に戻ってあの高級ホテルに入り、賢治が予約していたツインルームのドアを開けたときはさすがに霧子も緊張したが、賢治はドアを閉めて部屋に入るやいなや霧子を後ろから抱きしめてきた。
「やっと二人きりやね」
基本だ、というか随分ベタなセリフだとは思ったが、賢治が早く霧子を欲しそうなのは昼間から一目瞭然だった。
手を握ったり腰に手を回したり、こちらにいたときの同僚や客にばったり会ったらどうするのだろうと思うほどには賢治は遠慮なく霧子に触れてきた。
バスで運よく並んで座れれば、霧子の太ももにそっと手を置いて「白いなあ」と満足げにつぶやいていた。
「霧ちゃん」
自分に霧子を向き直らせると賢治は正面から力強く抱きしめ直した。
賢治のシャツから香るあの、博之と同じ匂いが、霧子をくらくらさせる。
「好きです」
実直なセリフとともに強く抱きしめられているのに霧子はどこか完全な他人事のように「この人、きっと若いころはもてたんだろうな」と思った。
京都の夜景を見下ろせる部屋で、そんなふうに思えるシチュエーションの中で賢治は唇にキスをしてきた。
自分の唇に、ぬめっとした賢治の唇が合わさると霧子は賢治のセリフについてぼんやりと考えた。
(好き、か。好きってどういうことだろう。奥さんの次に、とかかな)

