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埋み火
第2章 熾し火
「お似合いですし、これはお洋服を選ばないと思いますよ」


 店員が手鏡を持たせてくれたので、壁の姿見と合わせ鏡にして自分の後頭部を見ることができた。

 手早く肩までの黒髪をハーフアップにし、後頭部にその紫のバレッタを留めてくれた。


(これだけ高いなら、何にでも合ってくれなきゃ困るわよ。髪留めひとつに一万円以上もかけるのなら、毎日つけられるくらい可愛くてベーシックじゃなきゃ)


 久しぶりにここの髪留めが欲しかったが、自分がボーナスすらない契約社員であることを考えると今後のこともあるし我慢することにした。

 ただ、もう東京には行かないからそのための節約はしなくていいと気付くと、そういえばこれはいつも払う新幹線とホテルの宿泊がセットになった出張パックのちょうど半額だと気付いてまた胸が痛んだ。


「これにするかい?」

「いや、買えないから。久しぶりにここのものをつけてみたかっただけ」

「ううん、これは俺からのプレゼントね。これでいいなら、そのままつけてこ」


 そういって賢治はさっと店員に会計を頼み、ぽんと一万円札を二枚出した。


 賢治のふところ具合を探るわけではないが霧子は「お金、あるのね」と思ってしまった。


(でも、高いからじゃなくて、何だか嬉しいわ。男の人からのプレゼントなんて、もう何年ももらってないもの)


 夫が最後にくれたのは少し洒落たピンクゴールドの腕時計だが、出てくる数日前に電池も切れたし腕につけてもいたくないので家に置いてきた。

 そして霧子がいま一番近しく愛しい男は小遣いも少ないらしく、いつもデートの前は必死でやりくりをしていた。

 だから霧子はたとえ自分に休みが潤沢にあったとしてもあまり東京には行ってはいけないなと感じていた。
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