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記憶の彼方に眠る恋
第3章 事故
 翌朝9時、自宅アパートの最寄り駅のホームから、故郷へ向かう電車の中に紗友莉の姿があった。
 新快速の電車でも2時間以上かかることもあり、お盆でもお正月でもないのに帰郷することは紗友莉にとっては珍しいことだといえる。
 今でも連絡を取り合っている美香ら故郷の友人たちも、ほぼ全員が故郷を離れているため、わざわざ故郷へ帰って会う必要はないのだ。
 この日は土曜なのだが、車内はあまり混みあっておらず、紗友莉は乗車後すぐに空いている座席へと腰を落ち着けることができた。

 紗友莉は車窓から景色を眺めるのが大好きだ。
 飛行機恐怖症で、「生涯、飛行機に乗ることは絶対にない」と決めている紗友莉にとっては、電車や新幹線という移動手段は非常になじみ深く、ほぼ必然的に「電車や新幹線に乗り、車窓から景色を眺めているだけでも十分に楽しめる」という心持ちに至ったのだった。
 紗友莉の飛行機恐怖症は、ほとんど克服不可能とも思えるほど酷く、中学校と高校での修学旅行を「飛行機には乗れないから」という理由で参加しなかったほどなのだ。
 もちろん、紗友莉としても、修学旅行に出来れば参加したかったのは言うまでもないが、「行きたい」という気持ちよりも「飛行機には絶対に乗りたくない」という気持ちが勝ったのだった。
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