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籠鳥 ~溺愛~
第3章
「家政婦にチューする雇い主がどこにいますか?」
美冬のその抗議に、鏡哉は自分を指さす。
「って言うか、なんでチューするんですか?」
美冬が恥ずかしそうに涙目でそう訴えると、鏡哉は無表情で口を開く。
「所有のしるし?」
(しょ、所有のしるしって、子犬の首輪じゃないんだから――)
「わ、私、子犬じゃありませんから! さっさと食べちゃってください」
二人はそんなことを言い合いながら朝食を済ます。
鏡哉に弁当を持たせ、広い玄関まで見送りに行くと鏡哉が振り向いた。
「いってらっしゃいのキスでもしてくれるの?」
意地悪そうな笑みを口元に浮かべ、鏡哉が小さな美冬を覗き込む。
「し・ま・せ・ん! もう、行ってらっしゃい!」
「ふ、行ってきます」
鏡哉はそう言うと、楽しそうに部屋を出て行った。
一人になった部屋で美冬は大きなため息をつく。
(はあ、いつまで続くんだろ、このキス攻撃は……)
一緒に生活していた一年間、鏡哉は美冬をからかって楽しんでいた。
今回も鏡哉がキスに飽きるまで我慢するしかないだろう。
しかし、
(鏡哉さん、表情豊かになったな)
初対面の頃、鏡哉はほとんど感情を表に出さない人だった。
それが一緒に暮らし始めると少しずつ美冬に心を開いてくれたのか、よく笑うようになった。
(ま、飽きるまでなら、まあいっか……)
美冬はそう諦めると、自分も学校へ行くための用意をし始めた。
「社長、今日はご機嫌がよろしいですね」
社長室に入ってきたと思ったとたん、秘書の高柳は開口一番でそういった。
「はあ?」
鏡哉は無表情で聞き返す。
美冬と一緒にいるときは表情が緩むが、外へ一歩出ると鏡哉の鉄面皮はそのままだった。
「なんかいいことでもありましたか?」
鏡哉はいつも通り日ふるまっているつもりだったが、三年も一緒にいる高柳には鏡哉の機嫌が分かるらしい。
「別に」
「まあ、どうせ美冬ちゃんのことでしょうけれどね」
「ふん」
「この前久しぶりに会いましたけど、可愛くなりましたよね。あれじゃあ学校でモテるでしょう」
「……確かに、告白はされるといっていたが」
「ほお、じゃあ彼氏ができたら社長も複雑ですね」
「ふん、彼氏なんか作るはずがない」