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籠鳥 ~溺愛~
第5章      

「社長、嬉しいのは分かりますがあまり美冬ちゃんに無理をさせてはいけませんよ。彼女はまだ高校二年生なのですから」

 高柳の忠告に鏡哉が顔を上げる。

「……はあ? 何言ってるいるんだお前」

 鏡哉は眉間に薄くしわを寄せ、こちらを伺ってくる。

「またまた。私には隠さなくても大丈夫ですよ。美冬ちゃんと付き合うことになったのでしょう?」

 単刀直入にそう言ってやると、鏡哉はメガネの奥の切れ長の瞳を歪めた。

「お前……俺をロリコンにしたいのか?」

「………え?」

 あまりにも意外な答えに、高柳は言葉に詰まる。

 冗談かと思い鏡哉を見つめなおすが、本人はいたって真面目な表情だ。

「え……美冬ちゃんと付き合っているのではないのですか?」

「だから、なぜそうなる?」

「………」

「私は美冬の保護者だぞ。美冬に欲情してどうする」

(え、ええええええ〜〜〜っ!?)

 鏡哉の答えに高柳は絶句する。

(じゃあなぜあの時、ウォークインクローゼットであんなことをしていたんだ?)

 あの時、鏡哉を急な会合でマンションへ迎えに行った時、高柳はクローゼットのすぐ傍で(一応悪いとは思いながら)一部始終を見聞きしていたのだ。

 初めて見る鏡哉の蕩けそうな笑顔。

 愛おしそうにキスをし、美冬を抱きしめる姿。

 どう見てもそれは付き合い始めの男女にしか見えなかった。

「……では社長、もし私と美冬ちゃんが付き合うことに――」

「殺されたいのか?」

 言いかけた高柳を即座に遮った鏡哉からは、明らかに殺意が感じ取れる。

「では、社長には他に付き合っている女性がいらっしゃるのですか?」

「いる訳がないだろう。私には美冬がいるのに」

「………」

(うわあ……『無自覚さん』だ、この人――!!) 

 高柳は心の中でドン引きした。

 この何事にも完璧人間は美冬という少女に出会い、男として無条件に慈しみ愛しているというのに、全く無自覚なのだ。  

(ありえない……というか、美冬ちゃん――)

「不憫すぎる……」

 近くの壁に手をついてうな垂れた高柳を尻目に、鏡哉は定時に帰るべく着々と仕事をこなしていく。

 そんな鏡哉を「この天然たらし男」と恨めしそうに見つめながら、その一方で慈しむ相手を見つけられた鏡哉に、少しの嫉妬心を燃やした高柳なのであった。

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