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籠鳥 ~溺愛~
第5章
(結局、今日の授業は全く頭に入ってこなかった……)
美冬はとぼとぼと校舎から出て帰宅の途に就く。
高校二年生、大学受験まで後1年半しかないという大事な時期、ましてや美冬は塾や予備校というものに通っていないので、学校の授業は一分一秒を無駄にしてはならないのに。
(男の人を好きになってる場合じゃないのに――)
鏡哉は自分の雇用主だ。
彼のいつもの行動から、ついつい忘れがちにはなるが。
そして、自分とは違う世界に住む人。
(鏡哉さんのことを、好きになってはいけないのに……)
好き。
そう思ったとたん、顔がぼんと火照る。
(ひゃぁ〜〜! 私が、鏡哉さんを、好き〜〜っ!?)
ありえない、なんて身の程知らずなんだろう、と美冬は慌てる。
そう一人百面相をしていると「美冬ちゃん」と誰かに声をかけられた。
気が付くと高柳が校門の脇に立って、美冬に手招きしている。
「やあ、今日も可愛いね」
「はあ、ありがとうございます。どうされたんですか?」
「ちょっとね。送っていくから乗って?」
高柳に勧められ社用車であるリムジンに乗せられる。
いつもなら助手席に乗る高柳が、珍しく後部座席に乗り込んできた。
「あれ? 今日は鏡哉さん一緒じゃないんですね?」
「ああ、社長は仕事が早く終わったから、さっきマンションへ送ったばかりだよ」
「じゃあ今日はどうして?」
どうして自分を迎えに来たのだろうと、美冬は首をかしげてみせる。
「うん、美冬ちゃんの可愛い顔を見たくなってね」
「もう! 高柳さんまでからかわないでくださいよ〜」
美冬はそう言って唇を尖らせる。
しかしそこではたと我に返る。
(ってことはマンションに帰ったら鏡哉さんといきなり二人っきり? む、無理。せめて心の準備をする時間がほしい!)
いきなりワタワタとしだした美冬に高柳が口を開く。
「どうしたの、美冬ちゃん」
「え? あ、ああ何でもないです……あ、そうだ! 高柳さん今日、夕飯食べて行ってくれませんか?」
唐突すぎる美冬の申し出に、高柳が少し驚いたように瞳を見開く。
「夕飯? それはとても魅力的なお誘いだけれど、ごめんね。これから会社に戻ってまだ仕事があるんだ」
「そ、そうですか……」
あきらかにしゅんとした美冬に高柳が突っ込む。