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籠鳥 ~溺愛~
第6章
昼過ぎ。
美冬のベッドの隣でパソコンをいじっていた鏡哉は、彼女が瞼を上げたのに気づいた。
「……ここ、は?」
美冬が掠れた声でそう呟く。
「私の部屋だ。気が付いたか」
腰を上げてベッドの傍に寄ると、まだ視点が合わないのか美冬が瞼をぱちぱちと瞬く。
「わ、たし――?」
「睡眠不足と過労で熱を出して倒れたんだ」
「……たおれ、た?」
「ああ、解熱剤を飲ませたいんだが、何か食べられるか? おかゆとか」
美冬は眉間に皺を寄せてふるふると首を振る。
「リンゴは?」
「……リンゴ、なら」
「待ってなさい」
たどたどしく答える美冬の頭をなでると、鏡哉はリンゴをむきにキッチンへと行った。
慣れた手つきでリンゴを剥き、一口大に切る。
ペットボトルのミネラルウォーターとをトレイに乗せて寝室へと戻った。
美冬はボーっと天井を見つめて横になっていた。
ベッドヘッドにクッションを重ねて上半身を起こさせると、美冬の口に小さなリンゴを含ませてやる。
ゆっくりとしゃくしゃく咀嚼する姿が、リスのようで可愛いと鏡哉は思ってしまったが、口にはしなかった。
リンゴ半個分を食べ終えた美冬は、もう食べられないと謝ってきた。
「薬あるから、口あけて」
「あ、自分で――」
「いいから」
口を開けろと促す鏡哉に、美冬がおずおずと口を開く。
赤い舌の上に錠剤を乗せてやると、鏡哉はペットボトルの水を自分であおった。
「……?」
不思議そうにこちらを伺う美冬の顎を指先で掴むと、彼女の唇に自分のそれを合わせた。
「ぅんっ!?」
口移しで水を含ませると、ゆっくり唇を離す。
美冬は零れ落ちそうなほど大きく瞳を見開いていた。
「飲んで」
そう言うと、口の中の物をこくりと嚥下する。
(確か、水分を一杯とらせろって言ってたよな)
女医の言葉を思い出し、鏡哉はまた水を口に含む。
美冬の顎をつまむと、ぴくりと肩が震えたように見えたが、気にせず唇を合わせた。
水で潤んだ美冬の唇が、しっとりと鏡哉のそれを押し返す。
唇を離すと、美冬の潤んだ瞳と目が合う。
泣きそうなその表情に、はっと気づいた鏡哉は頭を撫でて口を開いた。
「ごめん。でもこれは、美冬ちゃんのファーストキスじゃないから――」