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婚約者の帰還(くすくす姫後日談・その1)
第3章 土産とご褒美
口触りの柔らかな銀のフォークの先に刺さったイチジクを噛むと、中から甘い蜜と果汁が溢れ、みずみずしい果肉の味わいが、口いっぱいに広がります。
溶けるように柔らかいイチジクは、上顎に滑らかな革のような皮の感触を、舌の上に毛足の長いベルベットのような果肉とぷつぷつした種の感触を残し、とろんとした甘さと一緒に、喉の奥へするりと滑り落ちて行きました。


「しっ…」

「おい、」

(今度はなんだ?!『し』?!『おいしい』でもなきゃ、『うまい』でもねぇのか!?)
渋いしつこい芯がある舌に残るという単語がサクナの頭の中を瞬時に駆け抜けましたが、味の余韻を楽しんだ姫が口にしたのは、そのどれでもありませんでした。

「…しっ…あわせぇえええーーーー…!!!!!」

そう言った姫の緩みきった顔を見て、サクナは腹の底からむずむずと暖かい歓喜が沸いてくるのを感じました。
相手を思って作ったものを食べた相手が、幸せとまで言ってくれるのです。果樹園主冥利に尽きるどころか、「今俺は世界の頂点に立った…!」とさえ思いました…
世界の何の頂点かは分かりませんが。


「そうか?!そんなに旨かったか…!…もう一個食うか?」
サクナは嬉しすぎて、本当は「全部食え!いくらでも食え!」と言いたい所でしたが、とりあえず控えめに提案してみました。
ところが、

「だめ。」
姫は、きっぱりと言いました。

「なんでだ。」
まさかさっきのはお世辞だったのか、とサクナが思っていると、また予想外のことを言い出しました。

「だって、ぱくぱく食べたら、もったいないもの。いいことがあった日に、ひとつずつ食べるの。」

「…スグリ…」
この頬を染めてはにかむ可愛い婚約者をどうしてやろうか、と思うと、サクナは世界の頂点どころか、月にでもどこにでも行ってやろうじゃねえかという気分になりました…
月に何の用があるのかは分かりませんが。

「…俺も一つ、貰ってもいいか?」
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