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婚約者の帰還(くすくす姫後日談・その1)
第3章 土産とご褒美
「…なんだよ。」
夢に見たほど焦がれた姫の肌に触れることを止められて、サクナは本気で不機嫌そうになりました。

「だって、まだイチジクが残ってるもの」
皿を見ると、確かに一切れ、残っています。
「…後でいいだろ。」
「だめ。せっかく美味しいものなんだから、一番美味しく食べなくちゃ。」

そう言うと姫は手を伸ばしてフォークを取り、イチジクにぷつんと刺しました。

「…口、開けて?」
「………ああ。」
姫はイチジクをサクナの口に運ぶと、先程やってもらったように、自分の唇でサクナの唇を塞ぎました。

「…ん…っ…」
二人はイチジクを舌で潰して絡め合いながら、九日間も触れ合えなかった、お互いの体に触れました。
そして、口の中のイチジクがすっかり姿を無くした頃に、お互いの中に溢れて満ちていた、甘い唾液を飲み込みました。

「…ね…おいしかった?…」
「旨いどころじゃねえぞ。」
サクナは姫を抱き上げて寝台に運びながら、わざとらしくぼやきました。
「あまり旨すぎるのも考え物だな。もう一人っきりじゃイチジク食う気になんかなれねぇ」
「…ずっと一緒に食べようね?」

寝台にそっと下ろされた姫は、くすぐったそうにくすくす笑うと、婚約者に両手を差し出しました。

「イイコで待ってたご褒美ください、マイスター。」
「ああ。…俺とお前、どっちの褒美だか、分かんねえけどな。」

そうして、弟子に乞われたマイスターは、不在の間を埋める為の長い午後というご褒美の、最初の口づけを落としました。
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