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王家の婚礼(くすくす姫後日談・その2)
第3章 婚礼の午後
「ん?どうかしたか?」
「…御婦人方、サクナのことかっこいいとか噂するの、やめて欲しい…」
「え?」
「お手洗いに行った時、聞いちゃったの。『あの殿方はどなたかしら』って」

その上「逞しい胸に抱かれたい」だの「あの腕で抱き上げられたい」だのと好き放題なことを言われていたのですが、思い出したくも言いたくも無いことだったので、姫は口には出しませんでした。

「お前も噂されてたぞ。『姫様は一層お美しくなられた』ってな」

その上、あちこちから舐めるように嫌らしい視線が姫に向けられていたことや、お手洗いとやらに立った後に姫の後をつけようとした不埒な輩に睨みを聞かせて震え上がらせておいたことは、姫が知らなくても良いことだったので、サクナは口には出しませんでした。

「私がどんなに『お美しく』なっても、他の殿方には全っ然関係ないから!…それより、御婦人方はサクナを見ないで欲しい…誰も見ちゃだめっ」
姫の、『他の殿方』への身も蓋もない言い草と、『御婦人方』へのあからさまな焼き餅に、サクナは苦笑しました。

「誰にも見せなかったら、お前の婚約者のお披露目にならねぇだろ」
「そうだけどー…」
スグリ姫は、今度はしっかり顔を上げてサクナを見ると、むうっと唇を尖らせました。

「それに、なんか、すっごくお上品に喋ってたっ!」
「お上品な方々なんだぞ?外面よくしとかねぇと後々面倒だろ」
仕事上の方便としてしか使いませんが、サクナは「お上品な言葉」も使おうと思えば使えます。
むしろ、そちらが本来だったのですが、そのことは今ではほとんど思い出すことすらありませんでした。

「お父様とお母様にだって、あんな風に喋らない癖にっ」
「王様と王妃様は、お前の両親だぞ。一生付き合うんだ、外面繕ってもしょうがねぇだろ」
その上王妃様は魔女だぞ、とは、口に出さずに胸の中だけで留めておきました。

「一回しか会わねえ奴等なんざ、どうでもいいんだよ。お上品な俺だけで十分だ」
「でも…なんか」
姫はそこで言い淀み、迷った末に口をつぐみました。
「でも、なんだ?」
言いたいことは我慢すんな、と促され、姫はぼそぼそ言いました。

「知らない人…みたい…なんだもの…」
「お?知らねぇ奴に惚れやがったのか?そりゃ大問題だな」
「…ばかっ。」

姫はそう言うと、ぷいっとそっぽを向きました。
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