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愛おしいキミに極甘な林檎を
第45章 親と過去

もう一度視線が合うのを待っているように感じたから私も颯太の方に体を向けてじっと見つめた。
二人っきりになった時とは別の緊張が走る。
赤く染まりきった残り少ない葉をつけた枝を揺らす風が静まった後、颯太は沈黙を破った。
「風子……、好きだ」
「…………」
「……いや、好き…だった」
応えることができない好意に対して返したい言葉に気付かれないように私はゆっくりと瞬きをした。
「別れてからこの五年間、オレはおまえのことをずっと忘れられなかった。でも結婚が決まっておまえを諦めてやっと前に進める。……塑羅緒と絶対に幸せになれよ」
壊れてしまった愛の欠片が残っていたのか涙が滲んでくる。
でもこれは悲しい涙じゃない。
お互いに引きずっていた過去の傷跡を拭って、新しい場所へと向かって行くことを示す幸せの涙。

