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私の欠けているところ
第10章 逃げ回る時を追いかけたんだけど

あれは確か
身を潜めて
二時間くらい
経った頃だった


暗がりの中

一人の女性が
ゆっくりと駅の方から
歩いてくるのが見えた


やや細身の女性…

もしかして…時?


前よりも
なんとなく弱々しく
少し痩せたように見えたけど
間違いなく
その人は時だった

確信した俺は
急いで時の側に駆け寄り
時の腕を掴んだ


「時、待ってた」


すると時は
声も出せない程
驚いた顔で
俺を見上げたんだけど


…えっ……時?


その時の顔を見て

俺は
言葉を失ってしまった


まるで
病人のように顔色は悪く
こけた頬

驚いてはいるが
俺の手を振り払う様子もなく
ただうつろに
じっと俺の目を見つめていたんだ


「驚かせて…ごめん。
どうしても話がしたくて…」


「………」


「時?
大丈夫か?貧血か?」


時は一瞬ふらつき
とっさに俺の腕をつかんでいた

持病の貧血がでたのかもしれない

俺はすぐに時の肩を抱き
鞄を持ってやった
とにかく
寝かせてやらないと…


「横になった方がいい」

そう声をかけると
さすがの時も
横になりたいのか

「……ごめ…」

と消え入りそうな声で答えていた


こんなに具合悪いのに
こんな遠くまで
電車に乗って帰って来た理由は
金がないのかもしれない



「階段、上がれるか?」


その問いに
時は小さくうなずいたけど
足元はおぼつかず
歩かせる方が危ないと思った俺は
時を抱き上げ
階段を上がり始めた

俺が抱き上げると
気が抜けたのか
時はすぐに脱力し
俺にうなだれかかった


その首元からは
久しぶりに嗅いだ
時の
ミルクのような甘い体臭がしていた

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