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第3章 はみ出した口紅
私はその日のために少しづつ準備をした。本を買うと言って貰ったお金で大人びた服や化粧を揃えた。

フリースクールへ行くと言い訳も考えた。

「フリースクールって昼間にあるんじゃ無いの?」

「昼間だと人目に着くし、働きながら勉強してる子もいるんだよ」

私達は夕食を食べて居た。最近は、小牧さんも当たり前の様に家でご飯を食べて帰るようになっていた。

「へー」

小牧さんが感心したように言ったけれど、本当はどうでも良い事なんだろうな。

「だから遅くまで開いてるんだよ」

もっともらしい嘘をつく。

「そう…今は色々あるのね」

母は全く私を疑わない。そしてきっと小牧さんの彼女の事なんて気がついていないんだろうと思った。

「どんな形であろうと良いの。勉強を続ける事が大切なの。だからママは好の事応援してるわ」

娘に後輩とセックスをしているのを隠す母と、彼女がいるのに年増と付き合う小牧さん。なんだかとっても滑稽に見えた。

小牧さんは、私に学校のことを聞かなくなった。

…母の要らぬ手回し。

そこから、母と小牧さんは仕事の話になった。いつもの事だ。何となくテレビを観ながら、母が作ったばかりの熱々の酢豚を食べた。

「あら?小牧くん。パイナップルダメだった?」

さりげなく夕日色に染まったパイナップルを、皿の隅へと寄せていた小牧さんに気がついて母が言った。

「あ。酢豚のパイナップルは…ちょっと…」

「唐揚げにレモンをかけるとか、このパイナップルも賛否両論あるわよね」

母は、小牧さんを気遣う様に言った。

「ちなみに俺はレモンかける派だけど、好ちゃんは?」

突然話を振られたので一瞬言葉に詰まった。

「マヨネーズ派」

「マジで?!」

小牧さんは驚いて母を見た。

「そうなの…好ったら…変でしょ?家じゃそんな食べ方する人居ないのにねぇ」

取りにくそうにしていたサラダボールを私の側に寄せながら母は笑った。

「へぇ〜面白いね」

一瞬話に混ざっただけで、2人の話はまた別の分岐点へと流れ始めたので、再びテレビに眼を向けた。
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