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第3章 はみ出した口紅
私は、貰った名刺の住所へと電車を乗り継いでやってきた。繁華街から少し離れた落ち着いた雰囲気の店が並ぶエリア。

名前のビルは見つかったけれど、お店が見当たらない。
エレベーターの前で、階別の案内を観ていると、階段から若い黒服の店員が降りてきた。

「あ?もしかして面接の子?」

やんちゃ系と言うよりも、野球帽が似合いそうな雰囲気の男の人だ。黒いスーツとのギャップが少し可笑しい。

「は…い」

私が返事をすると、上から下まで舐める様に見られた。

「じゃこっち…」

ビルから一旦外へ出ると違う場所へと案内された。そこは看板も何も無い入口で中に入ると数メートル歩き、小さなエレベーターの前へと着いた。男の人はポケットからカギを取り出した。そしてエレベーターの開閉ボタンの下に付いている鍵穴にそれを差し込み捻ると、数秒でエレベーターがやって来てドアが開いた。

「入って?」

4人入れば一杯の小さなエレベーター。

鍵を引き抜き、今度は中に入って再び階数の下にある鍵穴にキーを差し込み、12階のボタンを押した。

ゆっくりとあがっていくエレベーター。ガラス越しに男の人がじっとこちらを見ている。表の騒がしさが嘘の様だ。

ーーーカタン。

軽い音を立て少し上下に揺れてからエレベーターが止まった。

そして降りる様に促された。

「あそこ…黒塗りのドア。見える?あそこだから」

それだけ言うと、男の人は私を置き去りにしてさっさとエレベーターのドアを閉めた。

…不愛想な人。

下がり始めたエレベーターの中の男の人と目が合ったので、ぺこりと頭を下げた。
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