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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第1章 前編
秋のある日のことです。
男はこの時期には珍しく、部屋で仕事をしておりました。
秋は果樹園の最も忙しい季節です。様々な果物が次々と収穫を迎える時期に入り、仕事に追われる日々が続いておりました。

(…どうしてるかな…)
書類に目を通すのに疲れた男は、椅子にもたれて窓の外を見ました。
女とは、しばらく会えておりません。
男はほんの少しの間でも女に会って触れたかったのですが、女の方は仕事の妨げにはなりたくないと言いました。

「秋が終わったら、また会えるのでしょう?その位、待てるわ。きっと、あっという間よ」

最後に会った時に忙しくなることを伝えたところ、そう言って微笑んだ女が健気過ぎて、その日は離れがたくて相手の腰が砕けそうになる位まで、時間の限り何度も女を抱きました。

(…ヤれなくっても構わねぇから、抱き締めてえ…)
物思いに耽っていると切ない溜め息が零れましたが、考えても致し方ない事です。男はまた仕事に戻ろうと、書類に目を落としました…が。

「失礼致します、当主」
「ん?クロウか?」
家令が扉を叩く音がしました。
仕事中だと知っている時は滅多に邪魔をしない家令が、部屋を訪うのは異例の事です。
男は立ち上がり、扉を開けました。

「どうし…た…」
「ご来客で御座います」
「…こんにちは…」
家令に伴われて、女がひっそりと立っていました。降られたのか、髪や服が濡れています。

「お前、どうして!」
「当主。こちらをお使い下さい。冷えておいででしょうから、後程お茶をお持ちします。扉の外に置いておきますので、しばらくしたら部屋の外をご覧下さい」
「ありがとう、クロウ」
男は家令からタオルを受け取りながら、女を室内に入れてやりました。椅子に座らせて髪を拭いてやりながら見ると、真っ青な顔をしています。

「急に、どうしたんだ?…いや、来てくれたのはもちろん嬉しいが」
問われた女は、唇を戦慄かせました。

「疑われたの…男が居るだろう、って」
「何?!どうして、今頃」
「分からない…だって、今まで、全然…」
女は自分を抱くようにして、ぶるっと震えました。

その時微かに扉が叩かれ、男は扉を開けました。そこにはお茶一式と軽食を乗せ、布を掛けてあるワゴンが置いてありました。
男はそれを部屋に引き入れると、カップにお茶を注いで女の前に置きました。
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