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夢の欠片(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 中編
「当主様。お呼びですか」
「クロウ。お前に頼みが有る」

不意の来客がやって来てすぐに帰って行った日の、夕暮れ近く。
執務室に家令を呼んだこの屋敷の当主は、今朝起きた時と同じ男とは思えない程、疲れ果てて急に年を取った様に見えました。

「頼み?命令では無く、頼みで御座いますか?」
「ああ。頼みだ」
男は椅子から立ち上がり、苦しげな表情で家令に頭を下げました。

「頼む。助けてくれ、クロウ」
「宜しいのですか?私に、頼み事をなさっても」
家令は黙り込んだ男に目をやった後、部屋の扉に歩み寄りました。そして、扉を開けて辺りをさり気なく見回してから、扉を閉めて施錠しました。

「…以前申し上げましたが、私が願いをお聞きするのは、どなた様の頼みであっても、人の命の有る間に一度だけで御座います」
「ああ、知ってる」
「私は命令は何度でもお聞きします、お聞きする価値もしくは意味のある命令ならば。しかし、頼みをお聞きするのは、一度きりでございますーーあなた様は、まだお若い。今その権利を使ってしまって、後悔なさいませんか?」
「しねぇよ」
男は、椅子に沈み込んで目を瞑る前に、即答しました。
それを聞いた家令は、よく見ないと分からぬ程うっすらと、口許だけで笑いました。

「畏まりました。お引き受け致しましょう」
「本当か?!」
「但し、条件が御座います」
家令は室内を歩きながら、条件を話し始めました。

「まず一つ目に、私はこの家に仕える者で御座います。この家の御当主様であれ誰であれ、この家の不利益になる頼みは、お聞き出来ません。内容をお聞きして家に不利益が有ると判断した場合には、お断りをさせて頂きます」
「…承知した」

「そして、二つ目。貴方様の頼みをお聞きするのと引き換えに、私はこの家の弥栄を要求致します」
家令は男の座っている机の前で立ち止まり、男を机越しに見下ろしました。そして滅多に浮かべないはっきりとした微笑みを浮かべながら、男に言いました。

「この家に、身を捧げて頂きます。今後はご自身の為だけの勝手なお振る舞いは、許されませんよ」
「構わねぇよ!!」
男はいらいらと吐き捨てる様に、家令の条件を飲みました。家業を継承する為の養子として家に入った男は、今迄とて好き勝手に振る舞えていた訳では無いのです。それを思えば二つ目の条件は、男にとっては大した事には思えませんでした。
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