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竜を継ぐ者~黄の刻印の章~(世界はエッチと愛で救われる)
第12章 いつもと少し違う朝の日常
 互いに年頃だし、潮時と甘受するしかないのだろうけど……そういう部分が面倒だな、男女の幼馴染ってやつは。

 ◆◇◆

 上履きに履き替える為に通りかかった玄関先で、一冊のスケッチブックが真吾の足元に落ちた。すぐにそれに気づいて拾う――パステルホワイトの表紙に小さく〝大崎美奈《おおさきみな》〟という名前。
 クラスメイトの女の子に、確かそんな子がいたはずだ。
 周囲にあまり興味を持たない真吾は、クラスメイトの細かい風体までは記憶はしていない。ただ名前と特徴を簡単に覚えている程度だ。
 美奈についても休み時間になるとスケッチブックに鉛筆を走らせている、物静かで暗そうな子だったようなという、曖昧な記憶しか持ち合わせていなかった。
 真吾が顔を上げると、そこには本人の大崎美奈が俯き加減で立っていた。
 細く華奢な体躯に、艶めいた黒髪を腰の辺りまで伸ばした小さな子。千佳も小柄だが、美奈はもっと小さい。顔が真吾の胸の辺りにきそうな程に小柄だ。
 尤も胸元は、千佳よりも発育はそこはかとなく進んでるように見えるなと真吾は思った。思わず目が先に胸元を捕らえたのは、思春期男子の性というやつだ。
 美奈の風体で真吾は「ああ」と納得した。目の下まで伸ばされた前髪の所為で、暗いイメージを懐いていたのかと。
 それにしても表情がさっぱり見えない。口元も手が軽く添えられてしまっているので、表情すら捉えられないが、美奈が恥ずかしそうにしているのは赤らめた頬で辛うじて理解できる。
 真吾はその様子から、自分よりも更に輪を掛けて内向的そうなものを感じた。スケッチブックを拾い上げてから既に、1分近くが経とうとしているのに美奈から話し掛けてきそうな雰囲気がまるでない。
 彼女の挙動を待っていたら、授業が始まりそうだ。

「あの……落としたよね、大崎さん」

 スケッチブックを美奈に差し出しながら、真吾は声を掛けた。
 心ならずも頬が熱くなってきてしまう。
 彩夏個人には慣れたけど、矢張り女性に慣れた訳じゃないんだなと真吾は実感させられた。こうなるから女の子に話し掛けるのは苦手なのだ。
 美奈はスケッチブックをおずおずと受け取りながら、蚊の鳴くような細い声で答えた。

「あ……ありがと……う」
「どういたしまして」

 更に真っ赤になる美奈に、真吾は気合で赤面を止めながら軽く微笑んだ。
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