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身代わりの夜
第14章 熱愛目出し帽
 山野辺が小声でそっと耳打ちしてきたのは、そんな時だ。

「今夜、課長の部屋におじゃましてもいいですか?」

 ラウンジで明日のイベント内容の確認と業務の振り分けを終えて、部屋に引き上げる途中だった。

「キャンペーンも軌道にのったし、ふたりきりで祝賀会でもどうです」

 横目でもうひとりの部下の後ろ姿を探る。
 古森はホールの自販機で缶ビールを買っていて、ふたりの内緒話にまるで気づいていないようだ。

 あれから山野辺には何度か誘われたが、忙しいのを理由に一度も承諾していない。
 部下と男女の関係をつづけるつもりはなかった。

 ふと村木の「部下をこき使っている」という言葉がよみがえる。
 亜沙子にしてみれば、目標を達成するための努力は当たり前なのだが、そうは思わない人間もいることは理解している。
 ハードなスケジュールで部下たちを追い込んでいる自覚はあった。

 村木の顔を見たことで、あらためて闘争心が湧く。
 もとより失敗は許されない状況だったが、なおのこと、石にかじりついてでも今回のプロジェクトを成功させて、あの男を見返してやりたかった。

 そのためには優秀な部下を手なずけておきたい。

「わかったわ。ふたりで楽しみましょう」

 意味ありげに含み笑いをすると、山野辺の瞳が好色に輝いた。
 わかりやすい男だった。
 女を虜にする巨根の持ち主なのを差し引いても、心の憂さを晴らすのにちょうどいい相手かもしれない。

 そう、自分を納得させた。


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