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身代わりの夜
第3章 かんちがい口唇奉仕
(や、山野辺って……)

 どうやら、亜沙子は啓太のことを山野辺と勘違いしているようだった。

 泣きたくなった。

 もちろん、下心があって上司の介護をしたわけではない。
 それでも、面倒なことを啓太にまかせて、さっさと退散した同僚と間違われたのでは、あまりに悲しすぎる。

 そんな啓太の気も知らず、亜沙子は甘やかな声で囁きつづける。

「でも、うれしかったわ、わざわざ送ってくれて。
 やっぱり山野辺くんよね。たよりにしてるから」

 本当なら心が浮き立つ上司の言葉も、それがここにいない同僚に向けられたものだと思うと切なくなる。
 相変わらず背中で悩ましく動く指先も、それが心地よいだけに、胸が押し潰されそうだった。
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