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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪

 潤はわずかに首を傾げ、まぶたを下ろした。自身がその書風に心惹かれた理由を考える。
 雄大な字形、豪快な線質、そして晩年になるにつれて確固たるものになった独自性。そこに見えるのは、それを揮毫(きごう)した人間の姿、その息遣い、揺るぎない想いである。
 藤田の書に出会ったときに頭に浮かんだこととよく似ている――。そう気づいた潤は、目をひらいて藤田を見つめた。そこには、熱く優しい笑顔があった。

「……っ」

 どくりと跳ねる鼓動に息切れしそうになりながら、潤は唇をひらいた。じっくりと、選び取った言葉を丁寧に並べる。

「たぶん、まっすぐで熱い心を持った人となりが想像できたからだと思います。誰がなんと言おうと自分らしさを貫く、そんな気迫が感じられる字だったから」

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