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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪

 藤田は朗らかな笑みを返すと、ふとその目に真剣な色を宿して唇を薄くひらいた。

「彼の生涯は、徹頭徹尾、筋を通すために捧げ尽くされたといっても過言ではありません。秩序が乱れ、揺れ動く政界の中で、その剛直な性格ゆえにしばしば権力者から敬遠され左遷されるなど、彼は変転極まりない生活を強いられました。しかし何者に振り回されようとも、唐朝への変わらぬ忠誠心、正義感と情熱を持ち、愚直に己の信念を貫き通した。そして最期は、唐朝に対する反乱軍によって殺されます」

 最後の言葉に潤が息を呑むと、藤田は宥めるように優しい表情を浮かべる。

「書は人なり、という言葉があります。その壮絶な生き様が、墨を含んだ筆と紙の摩擦によって写し取られている。潤さんはそれを無意識のうちに感じ取ったのです」

 そうして一呼吸置くと、彼はこう続けた。

「ご自身と重なるものを感じたから」

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