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滲む墨痕
第3章 雪泥鴻爪
「私は……」
一言呟いたとたんに意図せず目頭が熱くなり、腹の底から言いようのない激情が湧き上がる。このままでは無防備な泣き面を晒すことになると思った潤は、藤田の熱い手から逃れようと自ら腕を引いた。
その大きな手は一瞬わずかに抵抗の意思を示したかに思えたが、潤の細い手を引き戻すことなく離れた。
「先生……後ろを向いてくださいますか」
「後ろ?」
「はい。お願いします」
俯き加減に発した固い声にただならぬものを感じたか、藤田は畳に手をついてのそのそと身体を動かし背を向けた。
少し猫背なその広い背中を見つめながら、潤は目から静かに流れ出るあたたかなものを認めた。頬を一粒伝い落ちるたびに抑圧されていた感情が込み上げ、こらえようとすればするほど唇が激しく震えた。