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滲む墨痕
第2章 顔筋柳骨



 それはまるで歴史的建造物といった風情の、瓦屋根が映える大きな平屋だった。常緑樹の生け垣に囲われたその閑静な佇まいに看板らしきものは設置されておらず、なにも知らない者がこの道を通りかかっても、この一軒家で書道教室が開かれていることなど誰も気づかないだろう。

 門をくぐった先にある玄関の引き戸の前でコートを脱ぎ、緊張で震える指を玄関の古めかしいチャイムに伸ばす。一度ためらって手を引き戻し、小さく息を吐いて気を落ち着かせてから、潤は意を決してボタンを押し込んだ。ハンドバッグの持ち手を握りしめ、息をひそめて待った。
 しん、と静寂が流れる。誰も出てこない。
 バッグから携帯電話を取り出して時間を確認すると、午後一時を過ぎている。三日前に電話で話したとき、主な生徒である小学生が来る前の静かな時間帯を勧められ、たしかにこの時間に訪問する約束をしたはずだ。

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