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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
「ここにいたか、鬼塚。僕の部屋に来てくれ。白手袋が見つからないんだ」
作業室を出たところで、鬼塚がお付きをしている今城少尉に声をかけられる。
「はい。今城少尉」
「悪いな。僕はだらしがなくてね。直ぐに私物が行方不明になってしまうんだ」
階段を先に登りながら、今城はウィンクをし笑いかけた。
ベルリン大学に留学経験を持つ異色の少尉は、憲兵隊では変わり種だ。
海外生活が長かったせいか、仕草や所作も洗練されていてバタ臭い。
士官見習いは一人ずつ上官将校に付き、身の回りの世話をするのだが、今城少尉は部下に優しくいつも陽気なので、同期たちに羨ましがられた。
軍隊には不似合いな華やかな美貌も、憧憬を集めるのに充分なものだった。
「いいえ。少尉」
鬼塚は少し微笑んで答えた。

…と、不意に今城少尉が立ち止まり、直立不動の態勢で敬礼をした。
見上げた先には…威風堂々とした黒の軍服にきちりと身を包んだ男が階上から降りてくるところだった。
鬼塚も今城に倣い直立不動の敬礼をする。

男はそのまま表情も変えずにすれ違う。
通り過ぎた刹那、緊張を解いた鬼塚のブーツの踵が階段の縁を踏み外し、ぐらりとバランスを崩した。
落ちると思った瞬間、男の逞しい手が鬼塚の腕を掴んだ。
力強く引き寄せられ、咄嗟に詫びる。
「…すみません…!」
頑強な胸に抱きとめられる形で、囁かれる。
「…お前は遠近感が計りにくいのだから、気をつけろ」
…素っ気ない中に温かさを感じる言葉だった。
「ありがとうございます」

腕は直ぐさま離された。
男はそのまま何事もなかったかのように、美しい背中を見せながら階下へと降りて行った。

…大佐…元気そうだった。…良かった…。
一瞬だけれど貌が見られた喜びが、鬼塚の胸を満たす。

見送る鬼塚に、今城が興味深げに声をかけた。
「へえ…。彼が君の保護者か…」
鬼塚は今城を振り仰ぐ。
今城は人好きのする笑顔で促した。
「手袋を探してくれ、鬼塚。10分以内でだ。元帥閣下に拝謁しなくてはならないからな」

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