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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
「…そんなこと…大佐に言われるなんて…思わなかったです…」
…嫉妬してくれるのは、嬉しい。
自分が愛されているような気がするからだ。
男からまだ愛を告白されていない鬼塚にとって、それは貴重な言葉だった。

男は少し照れたような表情をし、それを見せないように鬼塚を抱きしめた。
「…いつだって、心配しているよ。…お前は強く美しい…。誰にも媚びない孤高の魂が、お前を一層輝かせる…。
その魅力に惹かれる男が居ないはずがない」
寡黙な男がこんなにも鬼塚について語ることはとても珍しい。
外国煙草と、火薬の香りがする頑強な胸に貌を埋める。
…大佐が俺に嫉妬してくれるなんて…。
少しは自惚れてもいいのかな…。

男は苦虫を噛み潰したような表情で続けた。
「今城は…若く、大層魅力的な男だ。ヨーロッパ帰りで貴族ではないが家柄や財力も申し分ない。
陸軍元帥とも親戚関係だし、憲兵隊では異色の男だ。
語学が堪能なので対外国の諜報活動には欠かせない男なのだが…軽薄に見えて、何を考えているか今ひとつ分かりかねるところもある。
気をつけろ。…奴は手が早そうだ」
鬼塚は思わず笑いを漏らした。
「今城少尉は、どなたにも社交的なだけですよ」
…手を握られたことは言わないでおこうと、鬼塚は思った。

鬼塚は少し背伸びをして男に口づける。
その口づけは、直ぐに濃密で性的なものに変わる。
男は噛み付くような口づけを繰り返しながら、干し草の山に鬼塚を押し倒した。
「私以外にこの身体を許すな」
強い欲望を秘めたくぐもった声が鼓膜に届く。
「…大佐…!」
「…お前は私のものだ…」
荒々しく軍服の下肢を脱がされながら、鬼塚はこの男にしか感じない征服される歪んだ悦びを感じる。
…男の性なのに、女のように扱われる湿った悦楽を感じさせられるのは、このひとだけだ…。他にはいない。
…これから先も…決して…。
予感めいたものが鬼塚を満たす。

男が手早く己れの軍服のベルトを解く音が聞こえる。
鬼塚は目を閉じ、自分から男の頑強な腰に脚を絡める。
「…ええ…大佐…。貴方だけです…貴方しかいません…」
…愛しているから…と呟こうとした言葉の欠片は、男の激しい口づけに奪われ、飲み込まれた。




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