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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
…なぜ、あんなことを…。
鬼塚は唇を噛み締める。
…俺は、大佐みたいな軍人になりたいのに…!
和葉みたいに…て…
俺が和葉さんみたいに戦死することを心配しているのかな…。
自分を慮ってくれることよりも、まだ男の心の中にいる和葉に嫉妬する。
その醜い心の自分に嫌気が差す。
「あれ?まだ残っていてくれたの?」
明るい声と華やかな貌が、ドアから覗く。
鬼塚は慌てて軍服を置き、今城の元に駆け寄る。
「今城少尉、お疲れ様でした」
サーベルとサッシュベルトを受け取る。
「ああ。元帥のお供で夜会にも連れて行かれたからね…すっかり遅くなってしまった」
今城からは舶来のものらしい香水の薫りがした。
身嗜みの良い彼は、普段から香水を欠かさないのだ。
噂では今城は女性にも大変人気があるらしい。
元帥が華やかで美しい甥を夜会に伴いたいと思うのは、無理からぬことだろうと鬼塚は思った。
「遅くまで悪いね」
屈託無く笑いかけてくる様子に、鬼塚の少しささくれていた心が和む。
…今城少尉は、郁未に似ているな…。
育ちが良いひとって、似るんだろうか…。
「いいえ。…珈琲を召し上がりますか?」
「それは嬉しいね。君が淹れた珈琲は絶品だからね」
言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。
今城の正装の軍服を脱がし、着替えを手伝い、鬼塚は支度部屋で珈琲を淹れた。
今城は留学時代にヨーロッパで買い揃えた様々な調度品や贅沢品を部屋に持ち込んでいた。
華美を良しとされない執務室も、まるで欧州のサロンのように華やかに飾り立ててあるものだから、年嵩の将校からの評判はいたく悪い。
けれど本人はどこ吹く風と飄々としているし、明朗な自信に満ち溢れている。
だから同期の将校には人気があるし、下士官、見習い士官には憧憬の感情を持たれている。
…でも、変わったひとだよな…。
己れにストイックで寡黙で…感情をあまり現さない男を見て来た鬼塚には今城は全くもって不思議な存在だった。
今城のお気に入りのジノリのカップに薫り高い珈琲を淹れ、差し出す。
今城は特注の長椅子にまるで王侯貴族のように優雅に座り、美味そうに珈琲を口に運んだ。
「君が淹れる珈琲が余りに美味いから同期の奴らに嫉妬されているくらいさ。彼らの見習い士官の淹れる珈琲は…相当に不味いらしい」
鬼塚は困ったように笑う。
「俺は…昔から珈琲を淹れる役目でしたから…」
鬼塚は唇を噛み締める。
…俺は、大佐みたいな軍人になりたいのに…!
和葉みたいに…て…
俺が和葉さんみたいに戦死することを心配しているのかな…。
自分を慮ってくれることよりも、まだ男の心の中にいる和葉に嫉妬する。
その醜い心の自分に嫌気が差す。
「あれ?まだ残っていてくれたの?」
明るい声と華やかな貌が、ドアから覗く。
鬼塚は慌てて軍服を置き、今城の元に駆け寄る。
「今城少尉、お疲れ様でした」
サーベルとサッシュベルトを受け取る。
「ああ。元帥のお供で夜会にも連れて行かれたからね…すっかり遅くなってしまった」
今城からは舶来のものらしい香水の薫りがした。
身嗜みの良い彼は、普段から香水を欠かさないのだ。
噂では今城は女性にも大変人気があるらしい。
元帥が華やかで美しい甥を夜会に伴いたいと思うのは、無理からぬことだろうと鬼塚は思った。
「遅くまで悪いね」
屈託無く笑いかけてくる様子に、鬼塚の少しささくれていた心が和む。
…今城少尉は、郁未に似ているな…。
育ちが良いひとって、似るんだろうか…。
「いいえ。…珈琲を召し上がりますか?」
「それは嬉しいね。君が淹れた珈琲は絶品だからね」
言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。
今城の正装の軍服を脱がし、着替えを手伝い、鬼塚は支度部屋で珈琲を淹れた。
今城は留学時代にヨーロッパで買い揃えた様々な調度品や贅沢品を部屋に持ち込んでいた。
華美を良しとされない執務室も、まるで欧州のサロンのように華やかに飾り立ててあるものだから、年嵩の将校からの評判はいたく悪い。
けれど本人はどこ吹く風と飄々としているし、明朗な自信に満ち溢れている。
だから同期の将校には人気があるし、下士官、見習い士官には憧憬の感情を持たれている。
…でも、変わったひとだよな…。
己れにストイックで寡黙で…感情をあまり現さない男を見て来た鬼塚には今城は全くもって不思議な存在だった。
今城のお気に入りのジノリのカップに薫り高い珈琲を淹れ、差し出す。
今城は特注の長椅子にまるで王侯貴族のように優雅に座り、美味そうに珈琲を口に運んだ。
「君が淹れる珈琲が余りに美味いから同期の奴らに嫉妬されているくらいさ。彼らの見習い士官の淹れる珈琲は…相当に不味いらしい」
鬼塚は困ったように笑う。
「俺は…昔から珈琲を淹れる役目でしたから…」