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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
少女達は一斉にはしゃぎだした。
「まあ!笙子様はロマンチストでいらっしゃること!
…でも現実にそんな運命の出会いなんてあるのかしら?」
「信じているわ。…私には分かるの。
私をずっと待って下さる運命のひとが必ずいつか現れる…て」
確信に満ちたように凛とした表情で言い切った時、突然強い風が吹き、笙子の手から日傘が離れた。
それはふわりと舞い上がると、瞬く間に鬼塚の足元まで転がり落ちてきた。

咄嗟に日傘を拾った鬼塚は、それを慌てて追いかけてきた小春と図らずも目の前で向かい合うことになってしまった。
…しかし、今更逃げ出すことは却って不自然だ。

…どんな厳しい軍事教練を受けた時よりも、激しく緊張する自分がいた。
心臓の鼓動の音がうるさいほどに響く。
鬼塚は、食い入るように小春を見つめた。
小春も鬼塚をじっと見上げ…やや驚いたようにその美しい双眸を見開いた。
「…あの…」
口を開いたのは小春が先だった。
鬼塚ははっと我に返った。
急いで握りしめていた日傘を差し出す。
「…どうぞ…」
律儀に日傘を差し掛けられ、小春はほっとしたかのように柔らかな微笑みを浮かべた。
…かつて、子どもの頃によく見た鬼塚が大好きな小春の微笑みだった。
「…ありがとうございます…」
受け取る小春の白く美しい手と鬼塚の黒革の手袋とが微かに触れ合う。
その刹那、小春はあっと言うように形の良い唇を開いた。
…まさか…俺が分かってしまったのだろうか…。

鬼塚は咄嗟に軍帽に手を遣ると、小春に背を向けた。
「失礼します」
そのまま去ろうとする鬼塚の背中に、小春の声が追いすがるように響いた。
「あの…!お待ちになってください…!」

恐る恐る振り返る先に、小春の真摯な眼差しがあった。
「…あの…。失礼ですけれど、以前にお会いしたことがありませんでしたかしら?…何だかとてもお懐かしい気持ちがいたしますの…」
心臓が潰れるほどに動揺し、鬼塚は間髪を入れずに首を振った。
「いいえ、お嬢さん。俺みたいな憲兵隊の下っ端と…貴女みたいなお嬢さんが知り合いな訳がない。人違いです」
小春は美しい眉を寄せ、やや哀しげな表情をした。
「…でも…」
思わず抱き寄せてしまいたい衝動と必死に闘い、鬼塚は再び小春に背を向ける。

「人違いです。…失礼いたします」
そう言い捨てると、鬼塚は心を振り払うようにしてその場を後にした。
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