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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
遠ざかる鬼塚の背後から、小春に駆け寄る少女達の声が聞こえた。
「笙子様…今の方、お知り合い?」
「…いいえ…。お人違いだったみたい…」
「…そうよね。…だって憲兵隊の方なんて…なんだか恐ろしいわ…」
「憲兵隊って、情け容赦なく怪しいと思う人間は片っ端から捉えて、拷問に掛けるんですって。
社会主義者の本を持っていただけでよ?」
「まあ、恐ろしい!
…それにあの人の黒い眼帯の怖いこと…。片目なんて…不気味だわよね」

少女らしい陰口をぴしゃりと止めたのは、小春だった。
「おやめになって!そんな根も葉もないようなことを…。
…それに…眼帯のどこが不気味なの⁈
お怪我をされたのか生まれつきなのか分からないけれど、お好きでなった訳じゃない筈だわ!
…致し方のないことを悪く仰るなんて、とても思い遣りがないわ!」
それまでの物静かで優しげな小春とは別人のような厳しい口調だった。

少女達は小春の剣幕に呆気に取られ、おろおろと取りなしていた。
「ご、ごめんなさい。笙子様。そんなつもりじゃ…」
「そうよ…ちょっと驚いてしまっただけよ。悪気はないの。…ねえ?」

…次第に遠ざかる少女達の話し声を聴きながら、鬼塚は微笑んだ。

…小春は昔と変わらず、優しいんだな…。
小さな時も、いじめられていた友達を必死で庇っていたっけ…。

…小春…。
俺は決めたよ…。
俺は…お前を守る為に戦う。
お前がずっと笑顔で暮らせるように、この東京を…日本を守る…。
…だから、小春…お前はずっと変わらずに、幸せに暮らしていてくれ…。
…名乗り会えなくても構わない…俺を思い出してくれなくていい…。

…お前が幸せなら…それでいいから…。


…曲がり角を曲がると、もう少女達の声は聞こえなくなった…。


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