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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
鬼塚は今城と共に警察病院に駆け込んだ。
集中治療室に男は寝かされていた。
…青ざめ、まるで生気のない白い彫像のような貌…。
見たこともないような顔色だ。
常に逞しく雄々しい貌をした男の面影はそこにはなかった。
…これは夢だ…。悪夢に違いない…。
「…銃弾は取り出せたが…肺が著しく損傷している…。
呼吸レベルがかなり下がっているらしい。
…気の毒だが…大佐はもう長くは保たないそうだ…」
医師から話を聞いたらしい今城が、痛ましげに告げた。
今城が何を言っているのか、鬼塚には理解出来なかった。
理解したくもなかった。
「…誰がこんなことを…」
震える声で尋ねる。
「先日、大佐に逮捕され獄死した反政府主義者の妻だ。大佐に恨みを持ってずっと付け狙っていたらしい。
…至近距離から何発も…並の男なら、即死していただろう…と」
怒りが胸に激しく焼き付く。
医者やナースが慌ただしく行き来する中、鬼塚は子どものように取り縋った。
「大佐!大佐!しっかりしてください!大佐!」
男はうっすらと目を開けた。
鬼塚を認めると、穏やかに微笑った。
…まるで、微睡みから目覚めたような柔らかな微笑みであった。
「…徹…。来てくれたのか…」
…まるで、少し怪我をした自分を恥じるような笑いであった。
鬼塚は男の手を握りしめる。
…いつもと変わらない温かな大きな手だ。
「大佐…!大丈夫です。すぐに良くなります。俺がついてます。ずっと大佐のそばにいる。だから…」
男の手が思わぬ力で握り返される。
「…いや…私はもう駄目だ。自分の死に時は分かる。
…それに…さすがに和葉が痺れを切らしているだろうしな…」
可笑しそうに笑う男の手をぎゅっと握りしめる。
十二歳の子どもに戻った鬼塚が泣きながら叫ぶ。
「渡さないよ!和葉さんには!和葉さんは天国でしょう⁈貴方は天国にはいけないんだから!だからここにいなきゃいけないんだから!どこにもいかせないよ!」
「…酷いドーベルマンだ…。私は育て方を間違えたな…」
言葉とは裏腹の愛おしげな声が弱々しく響く。
男の指がそっと持ち上がり鬼塚の涙に触れた。
「…徹…」
声が更に小さくなる。
「何?大佐…」
鬼塚は身を屈め、男の口元に耳を押し当てる。
男の微かな声が優しく鼓膜を震わせた。
「…愛しているよ…」
集中治療室に男は寝かされていた。
…青ざめ、まるで生気のない白い彫像のような貌…。
見たこともないような顔色だ。
常に逞しく雄々しい貌をした男の面影はそこにはなかった。
…これは夢だ…。悪夢に違いない…。
「…銃弾は取り出せたが…肺が著しく損傷している…。
呼吸レベルがかなり下がっているらしい。
…気の毒だが…大佐はもう長くは保たないそうだ…」
医師から話を聞いたらしい今城が、痛ましげに告げた。
今城が何を言っているのか、鬼塚には理解出来なかった。
理解したくもなかった。
「…誰がこんなことを…」
震える声で尋ねる。
「先日、大佐に逮捕され獄死した反政府主義者の妻だ。大佐に恨みを持ってずっと付け狙っていたらしい。
…至近距離から何発も…並の男なら、即死していただろう…と」
怒りが胸に激しく焼き付く。
医者やナースが慌ただしく行き来する中、鬼塚は子どものように取り縋った。
「大佐!大佐!しっかりしてください!大佐!」
男はうっすらと目を開けた。
鬼塚を認めると、穏やかに微笑った。
…まるで、微睡みから目覚めたような柔らかな微笑みであった。
「…徹…。来てくれたのか…」
…まるで、少し怪我をした自分を恥じるような笑いであった。
鬼塚は男の手を握りしめる。
…いつもと変わらない温かな大きな手だ。
「大佐…!大丈夫です。すぐに良くなります。俺がついてます。ずっと大佐のそばにいる。だから…」
男の手が思わぬ力で握り返される。
「…いや…私はもう駄目だ。自分の死に時は分かる。
…それに…さすがに和葉が痺れを切らしているだろうしな…」
可笑しそうに笑う男の手をぎゅっと握りしめる。
十二歳の子どもに戻った鬼塚が泣きながら叫ぶ。
「渡さないよ!和葉さんには!和葉さんは天国でしょう⁈貴方は天国にはいけないんだから!だからここにいなきゃいけないんだから!どこにもいかせないよ!」
「…酷いドーベルマンだ…。私は育て方を間違えたな…」
言葉とは裏腹の愛おしげな声が弱々しく響く。
男の指がそっと持ち上がり鬼塚の涙に触れた。
「…徹…」
声が更に小さくなる。
「何?大佐…」
鬼塚は身を屈め、男の口元に耳を押し当てる。
男の微かな声が優しく鼓膜を震わせた。
「…愛しているよ…」