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いつかの春に君と
第3章 永遠の花
鬼塚の隻眼が凍りつく。
「…いま…なんて…」
男は目を細め、密やかな声で繰り返した。
「…愛している。…言葉にすると、お前を喪いそうで…怖くて…言えなかった…。許してくれ…。
…お前は…私の希望だった…なにもかもなくした…私の…たったひとつの光…」

涙に霞んで男の貌がよく見えない。
悔しい。
もっともっとはっきり見たいのに。
流れる涙はそのままに、鬼塚は心が千切れそうになりながらかき口説く。
「…愛しています…!…大佐…死なないで…そばにいてください。
…貴方が俺に人生を与えてくれたのだから、貴方は俺のそばにいてくれなくちゃいけないんだ!
和葉さん…!まだ連れていかないで…お願いだから…!」
病室の中空に彷徨っていそうな和葉の魂の気配に懇願する。

男の表情はもはや死を受け入れた穏やかなものだった。
「…約束だ。お前は生きろ。生き延びろ…。
生き延びて…愛する人と出会い…人生を生き抜くのだ…」
堪らずに鬼塚は男の唇に唇を押し付ける。
「…死なないで…いやだ…」
唇が離れた瞬間、男は瞼を閉じながらもう一度繰り返した。
「…愛している…徹…」
優しい愛の言葉だった。

…それから、男の唇はもう何の言葉も刻むことなく、静かに永遠に閉じられたのだった。


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