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その匂い買います
第1章 その匂い買います
 匂いを嗅がせてくれる人がいて、そして、匂いを売ってくれる人がいる。きちんと需要と供給が、なされていた。所詮、浮世は色と欲。
 かし、それでも良いと、人生は上々だ、と、恵美の匂いを嗅いだ中塚は、生まれて初めて微笑んでいた。
 無表情で鉄仮面と罵られた男が、初めて微笑んだのである。
 中塚はこの時に確信をした、自分の中で蠢いていた何者かは、これだったのかと。そして、中塚にとって異性との出会いは、匂いとの出会いでもあった。
 そして、もう一通のメールを確認すると、それはサイトメールであった。40代の女性からのメールである。
 中塚の掲示板の投稿を見た女性が、メールをしてきたのである。
「はじめまして。掲示板拝見いたしました。足の匂いの件ですが、詳細を教えて下さい。よろしくお願い致します」
 との趣旨のメールだった。
 そして中塚は
「あなたの、その匂いを買います」
 と、返信を入れた。

                         おわり
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