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その匂い買います
第1章 その匂い買います
 なるほどね。そのフェチ男の名前はなんていうの? 」
「サイトネームで、シュウジって名義だったわ」
「シュウジね」
「最近、本当に多いわよね。フェチ男。サイトでも、結構募集しているわよ」
「私も、やってみようかしら」
「やってみる」
 真美と敬子は、大爆笑をしながら、両手を叩いていた。その笑いは、あまり好ましくない笑いであった。
「でもさ、そういう男って、結局はテールエンドじゃない。最底辺の男」
 真美、薄笑いを浮かべて言った。
「でもね、あたしは、そうは思っていないのよ」
「あら、どうして? 」
「性癖って人それぞれじゃない。逆にフェチ女とかもいたりするし。フェチに対する性欲って、男女も変わらないと思うのよ」
「そりゃ、そうだけれど……」
 真美は敬子の正論に、幾分たじろいでいた。
 最近は、フェチ系のM男というのが、結構いるそうで、今までは、地下に潜っていたSMという世界が、インターネットの普及とともに日の目を浴びた瞬間、そこには沢山のフェチ系の男たちが存在していた。かつては、SMと言えば、ハード系が主流で、それがSMの大義名分かの如く扱われていた。しかし、時代の変遷とともに、それも移り変わり、今では、ソフト系がハード系を上回る勢いなのだそうだ。
 三崎が吸った煙草の煙が、吹き流しのように揺れながら、店内を飛んでいく。そして、煙が消えた頃、
「よし、帰るか。驕るわ」
 と、三崎は伝票をもって立ち上がり、すたすたとレジに向かい歩いて行った。中塚は、
「悪いな、いつも」
 と、三崎に申しわけなさそうに言うと、
「気にするな。俺と中塚の仲だろ」
 と、三崎は微笑んで見せた。
 中塚と三崎は、幼少の頃からの馴染みで、今は互いに、違う地域に住んでいる。中塚は中央線乗り場へ、そして三崎は井の頭線乗り場へと姿を消していった……。
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