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その匂い買います
第1章 その匂い買います
 二・三十分が経った頃、中塚は再びスマホマックスにログインする。
 画面に映る夕陽のオレンジ色の色彩が、パソコンの画面を覆いつくし、ログインしたサイトの画面も赤黒く輝き、中塚の無表情の顔すら、笑顔のように映し出していた。
 メールが二通程届いていた。
 受信ボックスを開けると、30代と40代の女性からの、メールであった。中塚は両社のメールを確認する。
 まず30代の女性の方からだが、30代の人妻で、
「平日の昼間でしたら匂いはします」
との事だ。次に40代の女性の方だが、
「仕事帰りにいかがですか?」
 と中塚は徐に立ち上がり、パソコンの画面を見つめていた。メガネを外した中塚の目は一重で鋭く、口元だけが笑っていた。 
パソコンの前に胡坐をかいて座り、30代の人妻に、メールを返信した。

 時が経ち、中塚は人妻『翔子』、と吉祥寺で落ち合う事になった。平日の昼間、映画館の前での待ち合わせ。中塚は有給休暇を取り、今回に備えていた。それほどまでに、中塚にとって、人妻『翔子』との出会いは、大切な時間でもあった。
 待ち合わせ時間は、午後一時。中塚は待ち合わせ時間の、10分前に到着をしていた。あまり汗をかかない中塚。右手にペットボトルを持ち、それに一口つける。水分補給である。気温はゆうに35度を超えていた。
 午後1時になった。
「シュウジさんですか?」
 中塚の目の前に、メガネをかけた小柄な女性が、姿を現した。
「翔子さんですか? 」
「はい」
 メガネをかけた、小柄な女性は微笑んだ。
 縁取りの赤いメガネは、どことなくぎこちなく、それは普段はメガネをかけてはいないのではないかというくらいに、似合っていなかったのである。
 中塚の鋭い瞳は、メガネよりも足下に向かっていた。素足で黒のパンプスを履いていた。
「暑いですね」
 中塚は唐突に言った。
「そうですね」
相槌をうつ翔子の額は幾分汗ばんでいた。
 そしてふたりは、肩を並べて映画館裏のホテルへと向かい歩いて行く……
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