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女鑑~おんなかがみ~
第14章 被虐
このままでは今日も抱いてもらえない・・・。
「あの,お待ちください」
葵は思わずそう声に出していた。

「なんですかな」画用紙を重ねていた老人が振り返る。
「どうか,一度,このままで,私を,どうか…」
「おや,おや,これはまた・・・」
後ろ姿が呆れたように首をすくめていることに気づいて突然恥ずかしさがこみあげてきた。

「五助,こちらのお嬢さんのたってのご希望だ,このままで入れさせてもらいなさい」
「へ,いいんですか,儂なんかで」
と五助は画家の顔を見た。
「せっかくですから,絵の具をもう一度出して,交わっているところも描かせてもらいましょう。」
老人は淡々として,さっき重ねた画用紙から一枚を取り出した。

一見獣のような男が,そのような気遣いをすることが意外で,葵は面白いと思った。
「このお嬢さんは,先生に抱いてもらいたいんじゃないんですかね」と五助は言い,
葵は望みを言い当てられて顔に血が上った。

「ばかばかしい。老人をからかうものではありません。」と画家が答え,ようやく五助は
「本当に,儂で,それじゃ,お言葉に甘えて・・」と恐縮しながら褌を外しにかかった。
葵は,小さな失望を感じ,そして,赤面したことを画家にも五助にも知られたくないと思った。

まるで熊のように全身が毛深い男に対しては,多少の嫌悪感がないわけでもなかったが,同時に,望んだ相手とは別の,獣のような男を受け入れることに倒錯した期待を感じてもいた。
一見熊のように見える男が,縛られて開かれたままの足の間に分け入ってきたとき,葵は,この三日間,これをずっと待っていたのだと思った。
固く縛られたまま,獣のような男の餌食になるのだということに陶酔したためか,身体中の感覚がより鋭敏になり,身体の奥がこれまで以上に熱くなった。
葵は身体をのけぞらせながら,絵筆を動かす端正な老人のほうに視線を向けた。
この身体を見て,画家も自分を抱きたいと思ってはくれないだろうかと思った。

そのとき,絵筆が少し止まってため息が聞こえた。
「嘆かわしい。女というのはどこまで淫乱で強欲になるものなのか」とため息交じりの声が呟いていた。
葵は一瞬,冷たい水をかけられたような気分になり,それを紛らわそうとますます五助を深く受け入れた。
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