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女鑑~おんなかがみ~
第11章 嗜虐
呆然と立ち尽くす若槻の前で,ヒキガエルの饒舌なしゃべりは続いた。
「小紫はなあ,一瞬泣きそうな顔になったけど,すぐにちゃんと「よろしおたのもうします」て言うてな。そういう気丈なとこが,武士の娘なんやろうかな。
まだ子供みたいな身体やから,可哀そうに思たんやけど,儂らからしたらそこがええのや。
儂が,乳やら尻やら触っても舐っても,一生懸命に辛抱してたわ。
それでもさすがになあ,肝心のところに来たら,ちょっと泣いていやがったで。
脚をぴたっと閉じてな,堪忍してくださいって,泣きよるんや。
そこでな,儂は言うたったんや。
お前さんは,踊りや三味の稽古を一生懸命して,弟に学問をさせるために気張っているんやろ。
それやったら,これも辛抱せんな,水の泡になるで。弟を帝大に行かすんやろ。
いっときは辛いけど,じきにようなるからなって。
そうしたら,急に素直になってな。かなり痛い思いもさしたやろけど,声も立てんと辛抱しとった。ほんまに,ええ妓や,辛抱強いし,賢いし」

若槻は怒りと悲しみに震え,息もできないほどであったが,同時に,自分の袴の下が固く勃っていることに気づいた。
幼いころからの憧れだった美しくて賢い姉が,このヒキガエルのような男に組み敷かれている様を想像すると,むらむらとしたものが下からもこみあげてきて,そのような自分自身への苛立ちと怒りも抑えられなくなった。
「覚悟しろ」
若槻は,稽古の帰りに持っていた剣道用の竹刀で全力で打とうとした。竹刀はかわされて肩に当たっただけだったが,酔っていたせいかヒキガエルは尻もちをついて転んだ。
「痛い,何をする,やめんか,助けてくれ」
肩にはかなり強く竹刀が当たったはずだったが,血も出ていない。そのときになってようやく,剣道用の竹刀では人を殺せないということに思い至った。
若槻は,河原で大きそうな石を探した。河原の石はどれも,小さくて丸いものばかりで,人を殺せそうな石は見当たらなかったが,大きそうなものを探して,しりもちをついた男の頭の上から思いきりぶつけた。

そこに最初の叫び声を聞いた人たちが集まってきて,若槻は取り押さえられ,後からきた巡査に交番に連れていかれた。
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