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つきよの相手
第1章 1
 結婚する日のことなら、何度も夢に見ていた。
 顔も知らない相手の指先の熱さや体温、声までがリアルに感じられて、微笑んだところで目が覚める。夢なんだ、という事実が寂しかった。
 でも、二十歳になる日は必ず来る。
 その日が来たら、俺は約束の相手に迎えられて、一生寄り添って暮らすんだ。
 そういう運命だと、教育係の羽瀬から聞かされていた。
「玲さまはいずれ、高崎家へ贈られる大切な方。未来の旦那様を想って、自分を磨いてください」
 俺には両親もおらず、村の家でともに暮らしているのは羽瀬だけだ。
 俺みたいに、同性の許婚をあてがわれる者は「付夜」と呼ばれていて、野槍村にだけ伝わる風習らしい。生まれてすぐに両親からは離されて、いつか許婚のもとに行くときのためだけに育てられる。俺の相手がどんな人なのか、名前すらも知らされていないけれど、顔を合わせる日は少しずつ近づいてきていた。
 現代みたいに、スマホやパソコンがある時代に、たった一人の情報がひとかけらも知らされない、というのは案外すごいことだと思う。俺はまだ見ぬ彼のことを夢に見ながら、日々「花嫁修業」のようなものを受けていた。
「高崎家は、使用人を何人も置いているお屋敷なので、家事などはしなくてよいということですが、ひととおりのことはできるに越したことはありません」
 お茶の淹れ方や花の生け方、料理などを、俺は学業の合間に教わった。
 部活なんかはしていなかった。
「俺は男なのに、なぜ嫁入りみたいなことを」
 昔、羽瀬に尋ねたことがある。
「しきたりだからです」
 羽瀬は言った。彼の父親もこのような仕事をしていて、一人の「付夜」を立派に育てたらしい。
 男同士では当然子どもも残せないし、正式な結婚ではないが、長きに渡って守られてきた伝統なのだという。相手の男も、付夜を妻のように扱って、戸籍上は独身のまま過ごすのだ。
「玲さま、旦那様に喜んでいただけるようにいたしましょう」
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