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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第2章 愛のバルカローレ
隣室のシャワーの音に、伊織はそわそわと気もそぞろになる。
和葉がシャワーを使うことなど毎日のことで、昨日までは気にも留めなかったのに…。
途方にくれてため息を吐く。
…俺は…どうしたんだ…一体…。

…先ほどの和葉の言葉が蘇る。
「…愛しているよ、伊織。ずっと前からね…」
それから幾度も口づけを交わし、それは次第に激しくなっていった。
一度味わうと病みつきになる禁断の甘い果実のような和葉の唇を、伊織は貪欲に食んでいったのだ。
和葉は息を弾ませながら、懇願した。
「…ちょっと…待って…少し…休ませて…」
見ると和葉の形の良い桜桃色の唇は、淫らに腫れ上がっていた。
男はおろか女にすら口づけをしたことがない伊織は、加減がわからなかったのだ。
「…ごめん…。痛かったか…?」
…けれど、一瞬でも離れたくなくて、和葉の頬を撫で回した。
唇に詫びるように人差し指でなぞる。
「…綺麗な唇だ…。まるで、桜の花びらみたいだ…」
和葉は泣き笑いをするように目を細めた。
「…君はたらしだな…」
「…え?」
意味がわからずに目を瞬かせる伊織に、和葉は
「…答えはあとで教えてあげる…」
そう囁くと、伊織の耳朶にキスをした。


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