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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
大人しやかな…まるでお伽話から抜け出してきたような美しい少女の貌には水晶のように透き通る意志が漲っていた。
「…私、年上の人が年下の人に暴力で捩伏せようとすることが一番許せないのです。
言葉も時として、力以上の暴力になります。
その人は環さんの心を酷く傷つけたのです。
当然の報いだわ。環さんは悪くないわ」

それまでの淑やかな口調とは一変した激しい言葉であった。
「…驚いたな。あんた、意外に激しい性格なんだな。
深窓のお嬢様かと思いきや…」
はっと我に返った表情をしたのち…笙子は桂川の川面に眼を遣った。

そしてぽつりと呟いた。
「…私、本当は裕福な家の生まれではないのです。
私は孤児でした。…孤児院で…ある事件に巻き込まれて…その治療で入院していた病院で一ノ瀬の両親に巡り会い、養女となったのです」
「え…?」
思いもかけない言葉に、環は眼を見張った。
笙子は苦しげに…しかししっかりとした声で語り続ける。
「…酷い事件の被害を受けたので…私にはその前数年の記憶がありません。…もはや実の両親や兄の記憶もあやふやです。
…それで…その過去の事件の悪夢に苦しんでいる時に、千紘さんに出会ったのです。
…千紘さんは私を悪夢から解き放って下さいました。
私を明るい場所へと導いて下さいました。
…千紘さんは私の命の恩人なのです」
笙子の貌に甘く優しい色が浮かぶ。
胸の奥がちりりと痛んだ。
「…へえ…そう…」
笙子が環を見上げ、笑いかける。
「千紘さんを紹介して下さったのが、伽倻子さんでした。
伽倻子さんはそれは親身に私の心配をして下さったのです。
私、伽倻子さんはご家族を裏切るようなことはなさらないと思います。
お美しくて華やかで行動的でいらっしゃるから、誤解をされるだけですわ」
「…別に…俺は自分の名誉のために、上級生を殴っただけだ。…母親のためなんかじゃない」
冷めたように言い放つ環に、笙子は凛として首を振った。
「いいえ。環さんはお母様を愛していらっしゃるわ。
だからお母様の名誉の為に手を挙げられたのだわ。
…私、環さんはとてもお優しくて、素敵な方だと思います」
「…あんた…」
夕風に靡く笙子の美しい髪が、環の頬を優しく撫でる。
その髪に触れたい欲望に突き動かされ、堪える。

…そして、この髪に触れられる唯一のひと…千紘に、環は初めて激しく嫉妬したのだった。




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