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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「…随分、仲良さげに話しているな…」
岩倉は開け放たれた離れの客間を、母屋の縁側の端からそっと眺める。
「…まさか…一日中一緒にいるんじゃないだろうな…」
大人気ない苛立ちが湧き上がる。
たまさか早く大学から帰宅出来、出迎えが女中のミツしかいないのが気に掛かり離れの様子を伺うと…案の定だった。

離れの客間で環は笙子をモデルに絵を描いている最中だったのだ。

環は、岩倉が見たこともないような輝くような笑顔を笙子に向けていた。
…あの子はあんな風に笑える子だったのか…。
一瞬、不意をつかれた。

笙子は…と見ると、今日は華やかな牡丹が描かれた友禅の振袖を着て淑やかに椅子に腰掛けていた。
環の笑顔にも、節度ある態度で接しているのが分かる。

笙子が自分を愛していることを、岩倉は微塵も疑ってはいなかった。
…はらはらするのは、笙子が美しすぎることだ。

結い上げた髪を緩く巻き、紅色のリボンで束ねたその髪型は新妻と言うよりは、初々しい女学生のようだ。
その真珠のように艶のある白い肌、深みのある黒い瞳、繊細で美しい形の鼻筋、露を含んだ薔薇の花弁のような唇…。
どれもただ美しいだけでなく、どこか儚げで憂いを漂わせているその美貌は、見るものの胸を掻き乱すのに充分なものだった。

「…ほんまに綺麗なひとやねえ…。
環ちゃんにはちいと毒かも知れへんなあ」
岩倉の背後からいきなり感心したような声が聞こえ、思わず振り返る。
品の良い藍色の大島紬を着た篤子がいつのまにか、岩倉の傍らに佇んでいたのだ。

「お母様…!驚かさないで下さいよ」
「…環ちゃん、すっかり人が変わったようやなあ。
あんなに少年らしい貌、初めて見たわ。…よっぽど笙子さんが好きなんやなあ」
母親の呑気な言葉に咳払いをして、牽制する。
「あれくらいの年頃の男の子は、少し年上の女性に惹かれるものですからね…。環もきっとそうでしょう」
「年の頃からゆうたらあんたより環ちゃんの方が違和感ないもんなあ。
…環ちゃんは美少年やし、こうしてみるとなんやお似合いの二人やなあ」
一々勘に触るような発言を投げかける篤子に
「お母様…、お母様はどっちの味方なんですか」
思わず嫌味を言ってしまう。
「…うちはどっちの味方もせえへん。なんや面白いことが好きなだけや」
そうにやりと笑いながら答えると、さっさと姿を消してしまったのだった。



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