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悦楽にて成仏して頂きます
第18章  未来の先


 戻って来た響揮が隣に座り、私のお腹に耳を当てた。
「まだ、動かないよー」
「動いたら、すぐ教えろよ。どっちかなあ。男か女か。どっちでも、構わねえけど」
 ニヤニヤしている響揮は、今までとのギャップがありすぎる。
 彼は、私が買っているマタニティー雑誌まで読んでいた。ネットでも調べて、名付けのサイトなども見ている。
「どんな能力を、持ってんのかなあ……。まずは、無事に生まれてこいよ」
 抱き寄せられ、肩に頭を載せた。
 その時、チャイムの音。
「ご無沙汰しておりました」
「琴音ちゃん!」
「お体は、大丈夫ですか? お祝いが遅くなって、申し訳ありません」
 祝いなら、電話でも済むのに。こうやって来てくれるのが、琴音らしい。手土産まで持って。
「なあ、琴音。今、どうしてんだ?」
 彼女をソファーに座らせ、響揮が訊く。
「実家におります。父とは戻った時喧嘩になりましたが、桜火さんとの、全てを話しました。それからは、何も言われなくなって」
 響揮が言っていた通り、琴音は見かけより強い。
「そっか。琴音。色んな料理、作り溜めしてくれるか? 体にいいヤツ」
「楓さんの為ですね。響揮さん、随分と優しくなられましたね」
「響揮が優しいのは、この子にだけだから」
 私はお腹をさすって見せた。
「そんな事ねえだろ。とにかく、お前は動くな」
「ええ。楓さんは、動かないでください」
 まるで重病人のような扱い。マタニティー雑誌には、適度に動いた方がいいと書いてあるのに。
 2人は、料理の材料を買いに出てしまった。
「ニャー」
 琥珀が、開けっ放しの私の部屋から出てくる。
 最近琥珀の寝床は、私のベッド。私は響揮と一緒に寝ているから、問題はない。
 琥珀がソファーに乗って来て、私の太ももに前足をかけた。そのまま、私の顔を見上げている。
「いいよ、座っても。おいで」
 お腹に当たるからと、以前響揮に叱られていた。
 私の言葉に安心したのか、琥珀が膝の上で丸くなる。
 琥珀の温もりが心地いい。
 幸せ過ぎて、怖いくらいだ。
 みんなの温かさに囲まれ、今はゆっくり過ごそうと思った。





 「悦楽にて成仏して頂きます」


 了



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