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悦楽にて成仏して頂きます
第5章 目醒め
手を離した隙に部屋の隅のバッグまで行こうとしたが、彼に掴まってしまった。
バッグの中には、装束などが入っているのに。
「逃げるなよ! そんなに、俺が嫌なのかよっ!」
そう言った彼は、真っ赤なオーラに包まれていた。
このままでは、彼に取り込まれてしまう。私は今までの意識を亡くし、彼と一緒に浮遊霊か地縛霊になる。
その為には、どうしてもバッグの中にある物が必要だ。
「離してっ」
「また逃げるのか!? また俺を、1人にするのか!?」
彼を振り切ったとしても、装束に着替える時間は無いだろう。
それでも私は、暴走した彼から逃げようとした。
さっきから琥珀は、威嚇の鳴き方を続けている。
「お願いっ、放してっ!」
「もう離さない! どこへも行かせないっ!」
小柄な私がどう頑張っても、男の力には敵わない。
このままでは、本当に取り込まれてしまう。そう思いながらも、懸命に抵抗した。
その時、突然ドアが開く。入って来たのは、数珠を手にした響揮。
響揮が左の掌を向けると、緑色の光が彼に向かう。それを受け、彼の動きが止まった。
目に入った琥珀の体は、琥珀色に包まれている。
「ギャアー!!」
琥珀の鳴き声が部屋に響くと、琥珀色の小さな光まで彼に放たれた。
「装束や数珠はいい! 今のうちに刺せ!」
私は急いでバッグへ行き、短刀だけを出す。
「早く! そんなに持たねえっ!」
「うんっ。ここはお前の住む世界ではない! 退散せよ!」
私は思い切り、彼に短刀を突き刺す。それと同時に、真っ赤なオーラは消えた。
「……子。どうして、あんな、男の、所に、なんか……」
白い光を放ち、彼の姿が消えていく。私はホッとして、その場へ座り込んだ。