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悦楽にて成仏して頂きます
第6章 新生活
「あっ、響揮。おはよう」
寝ぼけ気味の響揮が、リビングから続きのキッチンにやって来る。
「トイレに起きたら、いい匂いがしたから……」
ここに来てから2週間。朝はコーヒーだけの毎日だった。
「朝、メシ?」
大学に入ってから1人暮らしを始めて、1年以上。私だって節約の為、それなりに自炊をしていた。
部屋も片付いたから、大学が午後からの今日は朝食を作っている。
今日の午後行けば、大学は夏休み。高校時代のように宿題は無いから、夏休みは嬉しい。
琥珀はいつもの場所で、朝食の真っ最中。
改めて驚いたのは、大きな冷蔵庫に入っているのはビールや水などの飲み物ばかり。すぐに近くのコンビニへ行き、何とか材料を揃えた。
テーブルの上には、サラダと取り皿を置いてある。
「はい、どうぞ」
私は焼き立てのオムレツを、いつも響揮が座る場所へ置いた。
「コーヒーも出来てるよ」
コーヒーサーバーからカップへ注ぐと、それをオムレツの横へ置く。
チンと音がして、食パンが焼き上がった。バターを添えて出すと、突っ立っていた響揮が席に着く。
「すげえなあ。料理出来んのか……」
「こんなの、料理に入んないよ」
笑いながら自分の食事も揃え、響揮の前に座った。
「いただきまーす」
「あっ、いただきます……」
「どうしたの? こういうの、嫌いだった……?」
訊くと、響揮が首を振る。
「いや……。いつも外食とかデリバリーだし、ずっと1人だったから。いただきますなんて、何年振りに言ったかなあ」
確かにそう。響揮は、毎日社へ行く。朝は遅くまで寝ていて、デリバリーのゴミがよくキッチンのゴミ箱にあった。
「来てるヤツ、いいのか?」
「うん。夜まで待ってもらう」
ドアの外に霊がいるのは、私も解っている。さっき琥珀も、威嚇の鳴き声を上げていた。
でも今日の昼間くらい、待ってもらってもいいだろう。
「美味い」
オムレツを食べた響揮が言い、私は笑顔を見せた。
「食事は、ちゃんと摂らないと駄目だよ? こんな感じで良かったら、毎食作るから。明日から、夏休みだし」
「お前の、忙しくねえ時にな」
ぶっきらぼうな響揮なりの、気の遣い方なのだろう。