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僕と彼のイルミネーション
第3章  不協和音


 でも、それだけじゃない。
 信じていた人に、裏切られた。
 その思いの方が大きい。
 金を皿の下へ戻し、テレビを点けた。
 適当な番組を観ていたが、内容なんて全く頭に入って来ない。
 この隙に、逃げようかとも考えた。荷物はキャリーバッグだけ。
 僕だって、後数万なら手持ちはあった。皿の下の三万円と合わせれば、田舎へも帰れる。別の土地へ移り、暫く生活するも。
 それでも、龍からの金に手を着けたくない。
 これは働いた給料じゃなくて、セックスの代金。
 皿の横にある、二本の鍵を見つめた。一本には“店”というタグが付いている。もう一本はマンションのものだろう。
 あの店で働き続け、たまに龍に抱かれればいいんだろうか。
 彼の気持ちが解らない。悠斗という恋人がいても、酔った気晴らしでセックスが出来るなんて。
 この世界は、それが常識なんだろうか。
 僕だけを愛してくれる人。そんな考えは、間違いなんだろうか。
 テレビを消し、部屋に戻ってケットにくるまった。


 いつの間にか、眠っていたらしい。カーテンから透けているのは夕日。
 昨夜、中々寝付けなかったせいだ。
 何も食べていないのに、腹は減らない。でも喉が渇いていたから、静かにリビングへ行く。
 龍の姿は無かった。
 テーブルの上も、朝のまま。
 静まり返った広い部屋。
 実家は田舎だから家が広かったが、どこかしらで家族の声がしていた。
 都会のマンション。
 こんな豪華な生活がしたくて、上京したわけじゃない。一部屋だって構わない。本当に好きな人といられるのなら。
 キッチンで水を飲んでから、部屋のベッドへ横になった。
 スマホが鳴っている。
 見ると、拓海から。働き始めた時に、龍と拓海とは一応番号交換をしておいた。
 拓海が僕に、何の用があるのだろう。
 今は誰とも話したくない。
 そのままにしておくと留守電になったが、無語で切れてしまった。
 体がだるい。少し、熱っぽかった。
 平日の昼だけ鳴るように、目覚ましはセットしてある。
 色々な疲れから、いつの間にか目を閉じていた。


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